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シードステージから起業のリアルにチーム全員で伴走

シードステージから起業のリアルにチーム全員で伴走

庵原 保文 / ヤプリ株式会社 代表取締役
オールステージでの投資を掲げるZ Venture Capital(以下、ZVC)。ZVCのシード投資先で、先日マザーズにIPOしたヤプリ株式会社の庵原CEOに、シード投資からIPOまでのZVCとの伴走についてZVC代表の堀と振り返りました。
Q.どうしてYJキャピタル(ZVCの前進)から出資を受けようと思ったのですか?
【庵原】
共同創業者3人ともヤフー出身ではあったのですが、実は最初の資金調達の相談はYJキャピタルとは別のシードステージ投資を行うベンチャーキャピタルのA社へアプローチしました。β版ではありましたが実際に動くプロダクトもあったのでサクッと交渉して投資が決まると思っていたら、これが箸にも棒にもかからず(失笑)

自信を持っていたのですが(笑)、残念ながら興味を持ってもらえませんでした。

この時、シードステージの投資家探しは『ネットワークがないと無理なんだ』ってことを学びました。僕はヤフー出身ではあったのですが、A社側に僕たちのことを評価できる人が誰もいなかったんですよね。シードステージはプロダクトよりも、その人が信用に値するか、努力するかという『人』の部分を見るなと思ったんです。

そこで、次にヤフー時代の上司の川邊さん(当時ヤフー株式会社副社長。現在代表取締役社長)に連絡を取って相談しに行きました。川邊さんとランチしながら、僕らのおもちゃのようなプロダクトを見せたら「これ、誰が買うの?」というコメントをもらいました(笑)また、「ヤフーに戻って来なよ」とも声をかけていただきました。川邊さんの立場上、推薦しにくかったと思うのですが、当時設立間もないYJキャピタル取締役COOの小澤さんを紹介してくれました。
Q.当時、YJキャピタルはヤプリの何を評価して投資したのか?
【堀】
ヤプリとはIPOまでの約7年間ご一緒させていただきましたが、私がYJキャピタルに入社する直前に投資が行われていました。当時ヤプリにシードで投資決定に至った評価ポイントは三つありました。

一つはヤフー出身者による推薦があったこと。共同創業者3名の評価は非常に高かったです。リーダーの庵原さん、開発の佐野さん、デザイナーの黒田さんとチームのバランスもとても良かったですね。

二点目は、プロダクト。今では『ノーコード』という単語をメディアで見かけない日がないくらい認知度が確立されましたが、当時ネイティブアプリをプログラミング不要でドラッグ&ドロップだけで作成出来るというのは非常に画期的でした。当時と今では実装している機能は雲泥の差があると思いますが、初めて触った時に「おおー!」と驚きの声が出た、と小澤さんは言ってましたね。

三点目は、アプリというマーケット。まだ当時はアプリがちらほら登場してきた時代で、アプリ全盛期と呼べず、まさしく黎明期といった感じでした。今ほど当たり前の世界ではなかったですよね。新しいマーケットを切り開いていくこと、そしてその将来性に賭けたと聞いていました。

チーム、プロダクト、マーケット。ヤフー出身者だから出資したというより、この三拍子がきちんと備わっていたってところを僕からは改めて強調したいですね。
Q.YJキャピタルからはどのようなサポートがありましたか?
【堀】
一番嬉しくもあり、楽しかったのは2015年のSlush Asiaのピッチコンテスト準優勝ですね。2015年は、ヤプリのプロダクトが徐々に良いものになってきて、売上もわずかながら右肩上がりで伸び始めてきた頃でした。隔週で定例ミーティングをしていましたが、ヤプリに足りない要素は”スタートアップらしい勢い”と”PRを含めた認知度”だと感じていました。

PMFに2年近くの時間を費やしてきてしまったので、時の流れが止まっている様な印象がありました。このままだと優秀な人材が入ってこない、まずいな、と思っていました。また、これだけ素晴らしいプロダクトがあるのに世の中に知られていない。一般の人に知られていないのは仕方ないとしても、スタートアップ業界においても存在があまり知られていない状態でした。

まずはスタートアップ業界のこの凄いサービスを知ってもらいたい、という思いからBRIDGEの平野さんに僕が取材要請の連絡をしました。実は平野さんとはそれまで面識がなくて、ヤプリの取材依頼が初めての連絡でした。当時、資金調達したわけでもなく、新機能のリリースがあったわけでも無いのに平野さんに連絡しました。僕も必死でした。とにかく記事にしてもらいたい。今思うと平野さんに大変失礼なことをしたな、と。その時取材はしてくれたんですけど、やっぱり資金調達や有名企業からの受注というようなニュースになるネタがなかったので記事にならなかったんですよね。

その次に、だったらネタを作りに行けば良い、と考えてピッチコンテストへの応募を思いつきました。ピッチコンテストで優勝すればメディア掲載も増えるし、資金調達にも弾みがつく。そういう思いから、ピッチイベントに登壇しませんか?と庵原さんに提案しました。過去にピッチイベントに応募して書類審査で落とされた経験から、庵原さんの反応がすこぶる悪かったのは覚えています。

【庵原】
悪かったですね。

【堀】
過去に落ちたところに再挑戦するのはメンタル的にもよくないと思ったので、日本で初めて開催されるグローバルピッチイベントの知らせを耳にしたので、庵原さんに挑戦を持ちかけました。

【庵原】
2015年のSlush Asiaで準優勝したのは、創業3名に精神面で大きく自信を与えてくれました。堀さんがヤプリも応募するべきと強く訴えてきて、一方で自分は英語プレゼンになるのと、それまでピッチコンテンストでいい思い出がなかったので、「やります」と言いながら、逃げ切ろうと思っていました(笑)。すると応募締め切りの最終日まで、堀さんに応募したのか確認され、重い腰をあげてアプライしたという経緯があります。

これが全てでなないですけど、一つのきっかけとしてGlobis Capital Partners(以下、GCP)今野さんやDeNA顧問の川田さん、当時セールスフォースベンチャーズ(以下、SFV)だった浅田さんに出会っていく縁につながりましたね。いやあ、尻を叩かれて重い腰をあげるのは大事ですね!(笑)

【堀】
Slushで準優勝してから創業メンバー3人に自信の火が灯されたのは、僕もビシビシと感じました。本当に重い腰をあげて良かったです。ピッチコンテストで優勝し、その後資金調達も達成した結果、ようやく平野さんに取材してもらった内容が記事として日の目を見ることが出来ました。ここからヤプリの快進撃が本当に始まったな、と思っています。

勢いをつけたり、認知度を上げたりしている傍ら、もう一つ僕がヤプリをサポートする時に気をつけていたことがあります。それは共同創業者3人との1on1ランチですかね。共同創業者3人が一つ屋根の下で仕事しているんですけど、なんかコミュニケーションが円滑じゃなかったんですよね。当時のYJキャピタルの代表だった小澤さんに「経営会議よりも、3人のガス抜きをしてあげて!」とアドバイスをもらって、私が創業者一人一人と毎月ランチをするという(笑)


【庵原】
資金調達するまではお金もなかったので小さいワンルームマンションで仕事をしていました。毎日顔を合わせるものの、男3人で黙々と仕事している。オフィスも事業の規模も小さいから隣の人の仕事に文句をつけたがる。事業が軌道に乗る前なので、辛い時期でしたね。

【堀】
守秘義務があるからそれぞれの言っていたことは墓場まで持っていきますが、本当に皆さんストレスを抱えていましたね。スタートアップって本当に大変だな、って思いました。

【庵原】
当時、堀さんからもらったアドバイスで「チームにポジティブな変化が訪れるのは、構造的な変化がない限り無理だよ」と言われたのですが、まさにその通りでした。自社オフィスが、六本木のワンルームマンションから赤坂のオフィスに脱した時でしたかね、ストレスから解放されたのは。僕が管掌する営業部門にセールスが入社し、佐野が担当する開発部門にエンジニアが入り、黒田の管掌の制作・デザインにデザイナーが入り。それぞれが本当に忙しくなってお互いに文句を言い合っている余裕がなくなりました。

【堀】
事業をどう大きくしていくのか、ってところにしか関心が向かなくなったんでしょうね。少しでもお役に立ててよかったです。今、ZVCではキャピタリストにコーチング資格を取得するように働きかけています。今日時点では2名がコーチ資格を有しており、来月にはもう3名が追加で資格を取得します。僕のこの時の経験が、ZVCのキャピタリストにはコーチングスキルが必須だと気づかせてもらいました。対話を通じて支援先の経営陣をサポートしていこうと思っています。
Q.最後に、ZVCからの投資を検討している起業家の皆さんに一言
【堀】
他の数多あるベンチャーキャピタルと一緒にお仕事を経験されたわけではないので、強引なお願いになって恐縮ですが一言いただけると幸いです。

【庵原】
オールラウンドで投資しているZVCですが、個人的な経験からはシードからの早い段階での関わりがお勧めのVCです。代表の堀さんを中心に、チームみんなで起業家を支援しようとする姿勢が伝わってきます。創業期にはビジネス云々の前に、もっと大変なことがあります。ビジネスがうまくいかない間の創業者間のコミュニケーションや関係性、こういう起業のリアルにもしっかりと腰を据えて伴走してくれるカルチャーがあります。それは僕自身が堀さんとの長い経験から分かったことです。褒めすぎですかね笑。