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アメリカでのキャリア、東南アジアでの起業、そしてZVCのキャピタリストへ
by Shogo Takahashi
このインタビューは、Z Venture Capitalの投資チームのメンバーを紹介し、彼らの経歴や経験を深掘りするシリーズです。今回は、昨年(2024年)7月に加入したDaniel Song(以下、Daniel)をご紹介します。
Danielは、シリコンバレーのスタートアップブームが最高潮に達していた時期に、ベイエリアの急成長テック企業でキャリアをスタートさせました。その後、アジアへと活躍の場を広げ、東南アジア市場と本格的に関わることになります。以来、この経験が彼のキャリアを大きく形作っていきます。
これまでにDanielは東南アジアのスタートアップへの投資から、インドネシアでの起業まで、多様な経験を積んできました。そして現在、Z Venture Capitalのインベストメントマネジャーとして投資家、起業家の経験の双方を活かしながら、スタートアップの成長を支援しています。
今回のインタビューでは、Danielのキャリアの軌跡や、過去から学んだ教訓について深掘りし、さらに今最も注目しているスタートアップエコシステムについても言及しています。ぜひご覧ください。
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‐ Danielについて:グローバルでの成長環境とバックグラウンド
ーーまずDanielの人となりを知る上で、学生時代に至るまでどのような経験をされてきたのか教えてください。
Daniel:
私はアメリカで生まれ、3歳の時に韓国に移住しました。小学校卒業後、再びアメリカに戻り、フロリダとカナダで過ごした後、最終的にカリフォルニアに落ち着きました。幼い頃からの度重なる引っ越しは容易ではなく、新しい場所や文化、考え方に常に適応しなければなりませんでした。しかし振り返ってみると、その経験が私自身を形作ってきました。素早く適応する力、コンフォートゾーンを飛び出す勇気、そして新しい課題にオープンな心で立ち向かう姿勢を学びました。
ーー大学時代、学業以外にはどのようなことに興味を持っていましたか?
Daniel:
私の人生の大きな部分を音楽が占めていました。中学校でトロンボーンを始め、ジャズバンドに参加しました。それは音楽への愛を深めただけでなく、素晴らしい友人たちとの出会いにもつながりました。また、大学ではDJを始め、クラブでDJ活動もするようになりました。それはジャズバンドとは全く異なるエネルギーでしたが、同じく刺激的な体験でした。
最も印象に残っている思い出の一つは、世界的に有名なDJたちが出演していたサンフランシスコの伝説的なナイトクラブ、Ruby Skyeでの演奏です。この場所は、名高いDJたちが魅了する、音楽と情熱の聖地として知られていました。その場所で私がステージに立てたことは、夢のような非現実的な体験として今も心に残っています。そのクラブは今は閉店してしまったと聞き、寂しい気持ちですが、あそこでDJができたことは決して忘れられない思い出です。
‐ シリコンバレーから東南アジアへ:新市場の発見と起業への挑戦
ーーとても興味深い話でした。次にDanielさんが東南アジアに関わるようになったきっかけを教えてください。
Daniel:
ベイエリアにあるアドテックスタートアップでキャリアをスタートさせました。そして早い段階で東南アジアも管轄する韓国オフィスに異動となりました。それ以来、インドネシアや地域の他の国々へ頻繁に出張するようになり、当時はほとんど知らなかった市場についての理解を徐々に深めていきました。
東南アジアへの初めての出張で訪れたのがバンドンでした。ジャカルタに到着後、バスでバンドンへ向かいましたが、その対比は印象的でした。ジャカルタの中心部は世界の大都市に引けを取らない近代的な高層ビル群が立ち並んでいました。一方、郊外に向かうにつれて景色は一変し、豊かな自然、小さな街並み、そして明らかに異なる生活のペースが見えてきました。その旅は今でも心に残っています。バンドンは今でも私のインドネシアでお気に入りの場所の一つです。
その旅をさらに印象深いものにしたのは、若いゲーム開発者たちとの出会いでした。彼らは頭脳明晰で、意欲に満ちていて、自分たちで何かを作り上げたいという強い思いを持っていました。彼らのアイデアや展望について語る様子に触れ、この地域にはまだ見出されていない大きな可能性があることを実感しました。急速な発展、新たな才能の台頭、そして起業家精神が混ざり合う様子を目の当たりにし、東南アジアの成長ストーリーの一部になりたいと強く感じました。

(インドネシアを訪れた際のDaniel)
ーーインドネシアのスタートアップエコシステムについて、最初の印象はいかがでしたか?
Daniel:
東南アジアは真の意味で「モバイルファースト」です。この地域の多くの人々はパソコンの時代を完全にスキップし、スマートフォンで初めてオンラインの世界に触れています。この急速なモバイル普及によって、テクノロジーの景観全体が作り変えられ、人々は驚くべき速さでデジタルツールに適応していきました。
例えばGojek(ゴジェック)を見てみましょう。ドライバーが新規顧客を見つけるための手段として始まったものが、デジタル経済への入り口となりました。それまでテクノロジーに頼ることのなかった多くのドライバーが、ナビゲーション用のGoogle Maps、取引用の銀行アプリ、その他の効率を高めるモバイルサービスを使い始めました。これらの曲線は急でしたが、その効果は即座に現れました。テクノロジーは単なる便利なツールではなく、経済的エンパワーメントのための手段となったのです。東南アジアはモバイルを単に使用しただけでなく、それを活用して前例のないスケールで日常生活を変革し、新たな機会を生み出したのです。
ーーその後、VCを経て、起業家への転身を決意されましたが、その経験はいかがでしたか?
Daniel:
はい。その後ですが、VCとして3年間働いた後、2人の親しい友人と共に自分の会社を立ち上げるという新しい挑戦を決意しました。振り返ってみると、それは私のキャリアで最も大きな学びとなりました。VCとして起業家たちと関わり、彼らの人生観を間近で見てきたことが、この挑戦への原動力となりました。しかし、VCから起業家といったいわばテーブルの反対側に立つことで、それらは全く異なるものだということにすぐに気付かされました。
VCとして、出資の判断をする際に多くの企業を見てきたため、企業経営について十分な理解があるだろうと思い込んでいました。しかし、その思い込みはすぐに消え去りました。日々の課題、絶え間ない問題解決、正しい決断を下すプレッシャー。これらはピッチデックやプレゼンテーションからは学べないものでした。事業を立ち上げた2年半は人生で最も厳しい時期でしたが、同時に起業家たちとその経験に対して最大限の敬意を持つようになりました。
‐ 双方を見てきたことで学んだ教訓:スタートアップ運営の現実とVCとしての視点の変化
ーー会社設立時に早期に資金調達をされましたが、振り返ってみて、そこで直面した最大の課題は何でしたか?
Daniel:
私たちは幸運にもインドネシアでスタートアップを立ち上げるための資金を早期に調達することができました。しかし、ほとんどのスタートアップと同様、物事は計画通りには進みませんでした。いくつかのピボットを行う必要があり、その過程で最も重要な教訓を学びました。0から1を目指す段階では、プロダクトマーケットフィット以外に重要なことは何もないということです。チーム作り、企業文化の形成、戦略の練り直しに多くの時間を費やしましたが、結局のところ、顧客が本当に求めているものを作っていなければ、それらは意味をなさないのです。
「投資を受けた瞬間からカウントダウンが始まる」という言葉があります。結果を出さなければならないというプレッシャーは、時として十分な検討のない判断を強いることがあります。資金調達前にもっと時間をかけてアイデアを検証していれば、より準備が整っていたかもしれません。
ーーその経験を経てベンチャーキャピタルの世界に戻ってきました。投資家としての視点はどのように変化しましたか?
Daniel:
最初にVCとして働いていた時は、起業家との定期的なミーティングを持ち、スタートアップについてよく理解していると思っていました。しかし、自身が創業者となって初めて、投資家には見えない舞台裏でどれだけ多くのことが起きているかを実感しました。
起業家は、毎日多くの意思決定を行っていますが、投資家と共有するのはそのごく一部です。このことから、VCとして創業者の日々の現実を完全に理解することなく、安易にアドバイスをすることは有益ではないと気付きました。
そのため今では、異なるアプローチを取っています。急いでアドバイスするのではなく、起業家の課題、思考プロセス、そしてニーズを理解することに重点を置いています。彼らのビジネスを最もよく知っているのは、彼ら自身だからです。私の役割は、適切な人々との橋渡しをして、有用な経験を共有することです。そして何より、すべての答えを持っていると思い込むのではなく、彼らのキャリアを尊重することだと思います。

(起業家時代のDaniel。写真右から3人目)
‐ Z Venture Capitalへの参加:東南アジアでの投資拡大と関係強化
ーーZ Venture Capitalに参加を決めた理由は何ですか?
Daniel:
実は、ZVCに正式に入社する前から、チームの方と一緒に案件を見たり、東南アジアを訪れたりする機会がありました。その中で、彼らの投資へのアプローチや起業家との関わり方を知ることができました。私にとって、良い人々と働くことが最も重要なので、正式に参加する機会が訪れたとき、迷うことなく決断しました。
もう一つの大きな理由は、LINEヤフーのアセットを活用できるCVCの一員になれることでした。台湾や東南アジアに強いプレゼンスを持つLINEヤフーのリソースと、私自身の経験を組み合わせることで、スタートアップのスケール支援やシナジーの創出に貢献できると感じました。
さらに、今年1月にZVC2号ファンドを立ち上げたことで、市場環境が厳しい中でも優れた起業家を支援し続けられる体制が整いました。長期的な視点で投資し、継続的なフォローオン支援を行うことで、投資先企業にとって真のパートナーになれると考えています。

(2024年12月、東京で開催されたZVCメンバーの交流会にて)
ーー今年(2025年)、東南アジアのスタートアップエコシステムとどのように関わる予定ですか?
Daniel:
昨年は東南アジアを訪れ、カンファレンスなどに参加しましたが、今年はさらに一歩進んで、私たち自身がイベントを開催する予定です。
具体的には、タイ、インドネシア、シンガポールでZVCのイベントを企画しており、ポートフォリオ企業やスタートアップの起業家、LINEヤフーグループのメンバーを招く予定です。これらは単なるネットワーキングイベントではなく、スタートアップがLINEヤフーのエコシステムとどのように連携できるかを探る場となり、ZVCの地域での存在感を高める機会にもなります。
現地での時間を増やし、直接、起業家と対話することで、市場への理解を深め、より強固な関係を築いていきたいと考えています。
ーー現在の東南アジア市場について、どのように見ていますか?
Daniel:
過去2~3年、東南アジアのスタートアップにとっては厳しい時期が続きました。金利上昇の影響で資金調達が鈍化し、他の市場と比べても投資の減少がより顕著でした。
しかし、最近では回復の兆しも見え始めています。このような時期こそ、長期的な視点を持つ投資家にとって大きなチャンスがあると考えています。そのため、今年は現地に足を運び、起業家と直接会い、イベントを主催し、最適な投資機会を見つけることに注力したいと思います。皆さんとお会いできることをとても楽しみにしています。
ーーありがとうございました!