a16zが注目「NFTゲーム」の急成長を支える"Yield Guild Games"とは何か?

a16zが注目「NFTゲーム」の急成長を支える"Yield Guild Games"とは何か?

先日「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ、以下Axie)」(Sky Mavis社)が日本経済新聞に取り上げられたことは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。
デジタル資産NFT、ゲームに拡大 キャラなど取引高3倍に デジタルで作った動画や絵をブロックチェーン(分散型台帳)上で管理する非代替性トークン(NFT)で、オンラインゲームの存在感
Axieとは、月間2億ドルを売り上げて話題のポケモン風NFTゲーム(NFT=代替不可能なトークン)です。「Play-to-earn(P2E:ゲームして稼ぐ)」というモデルで、ゲーム内のキャラクターやアイテムの経済価値をNFT技術によって格段に向上させました。
実はAxieのゲームは、2018年のスタートです。前から存在していたNFTゲームですが、今までは「鳴かず飛ばず」でした。ところが、今年に入って2021年6月から猛スピードで売り上げが急上昇し、世界が驚くような存在になりました。
一体、何が起こったのでしょうか? その裏には、実は「Yield Guild Games(イールド・ギルド・ゲーム、以下YGG)」というゲーマーを集める組織が存在しており、Axieの急成長に大きく寄与しました。
これまでのNFTゲームは、プレイするために最初に十数万円のNFTのキャラクターを入手しなければならず、参入ハードルのとても高いものでした。それに対して、YGGが「スカラーシップ」という制度を導入し、Axieをやりたい人に対して初期コストゼロでゲームを始められる仕組みを構築し、その対価として収益を配分するモデルをつくりました。現在、YGGは4000名超のスカラーと数万人のプレイヤーを惹きつけています。
この仕組みは、NFTゲームの普及に対して、大きなポテンシャルが秘めているではないかと言われています。先日、米国で暗号通貨(クリプト)やブロックチェーンに大きく賭けている有名ファンド「アンドリーセン・ホロウィッツ(略称:a16z)」もYGG社の実績を認めて、出資しました。
本noteでは、NFT全体を整理した上で、そのキープレイヤーであるYGGにテーマを絞り、なぜYGGが「NFTビジネスにとって重要なのか」を解説したいと思います。

1. NFTと市場動向
 1.1 NFTの基礎概念

まずは超ざっくりとした”おさらい”です。最初に「NFTとは何か」についてです。ご存知の方は読み飛ばしてください。
簡単にいうと、NFTはデジタルコンテンツに対して、無数にいる記録員が番号をつけるプロセスを監視することです。たとえば、「Aがつくった画像はこれであり、そちらのBがつくったものではない」と証明することができます。ゆえに、「唯一性」「真偽性」を担保してくれます。
NFTの見せる形はさまざまにあり、画像、動画、ゲームキャラクターなんでも可能です。共通しているのは、デジタルの上に「番号」をつけられた形になるところです。

「何がすごいの?」という方も多く、やや抽象的で理解しにくいかもしれません。しかしながら、「希少性」は現代における価値の源泉となっており、社会にある程度の共通認識ができているので、言ってしまえばそれをネットで再現したものが「NFT」というわけです。

「虚空のインターネット世界」(便宜上、このように表現します)において、コンテンツには「形」がなく、「価値」なんて存在していないと思われるかもしれません。ですが、たとえば人間がお仏様に「投げ銭」をしているときと同じように、仮想の共同体において人間がNFTの存在を信じているならば、それに「価値がある」ということになります。
NFTは「価値がある」という信頼性を担保し、向上する重要な手段になるところが本質です。言ってみれば、貝殻が通貨として使われ始めるようなものであり、デジタル空間におけるターニングポイントとなるのではないと私は考えています。

 1.2 最新のNFT市場動向

ブロックチェーン、クリプトカレンシー(暗号通貨)、NFTの各領域のビジネスは刻々と変化しています。下記の図のように現況を整理しましたが、すぐに陳腐化する恐れもあります。念のため、ご注意ください。

NFTバリューチェーンには、上流にコンテンツをつくる「法人(会社)」「個人」がいます。中流にはNFTを発行するパブリッシャーがおり、それらのNFTを売買する「マーケットプレイス」が存在します。下流には、ユーザーが実際に購入したNFTを管理するためのウォレットサービスを提供するプレイヤーがいます。
現在のトレンドは、真ん中にいる「パブリッシャー」が大きく成長を見せているところです。その筆頭である「NBA Top shot(Dapper Labs社)」はNBAのバスケ選手のプレイ動画をNFT化する会社です。また冒頭でご紹介した「Axie」は、ポケモン感覚で属性の違うモンスターのNFTを購入し、ターン制で戦わせるゲームです。情報を整理すると次のような図になります。

2021年2月から「NBA Top shot」がNFT市場を牽引し、現在は「Axie」が大きく取引額を伸ばしてます。参考までに、中国テンセントの国民的ゲーム「王者栄躍」(スマホ版のLeague of Legends)を比較してみましょう。
Axie:8月 DAU100万人 1日取引金額25.5億円(2,535万ドル)
Axie Infinity | DappRadar Axie Infinity is a Pokemon-inspired digital pet universe wher dappradar.com


王者栄躍:8月 DAU1億人 1日取引金額10.1億円(920万ドル)

※中国語のソースになります
1.https://finance.sina.com.cn/tech/2020-11-02/doc-iiznctkc8928800.shtml
2.https://www.sohu.com/a/481331786_121180744

「Axie」は「王者栄躍」の100分の1のDAUしかないにもかかわらず、圧倒的に大きな取引金額となっています。どれだけ「Axie」に「稼ぐ力があるか」がわかるデータなのではないでしょうか。
「NBA Top shot」「Axie」共にユーザーにとって楽しみやすく、稼げる仕組みを提供できていることが特徴です。異なるのは、「NBA Top shot」がすでに大人数のファンやオーディエンスを抱えるIP(知的財産)ホルダーから攻めているのに対して、「Axie」は「Play-to-earn」モデルを武器にコロナで困窮に強いられるフィリピンの老若男女を魅了している点にあります。これについては後半で補足します。
PLAY-TO-EARN | NFT Gaming in the Philippines | English This is the story of one small community in the rural Philipp www.youtube.com



ここでは「NBA Top shot」「Axie」という代表例を簡単に紹介しましたが、より詳しい記事もあると思いますので、今回のnoteでは冒頭でも書きましたとおり「Axie」の躍進を支える「Yield Guild Games(イールド・ギルド・ゲーム、YGG)」に焦点を当てて解説します。

2. Axie躍進の裏側を支えるYGGが急成長する背景
 2.1 アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の投資

2021年8月、a16zはYGGに約5億円($4.6M)の出資をしました。a16zはシリコンバレーで3本の指に入る米国西海岸の投資ファンドですが、これまでもブロックチェーンのスタートアップに大きく賭けてきました。直近では、約2,400億円というブロックチェーン専用のファンドを立ち上げるなど、この領域に対して積極的に投資をしています。
Investing in Yield Guild Games - Andreessen Horowitz Right now there is a largely untapped economic opportunity in a16z.com
彼らは「なぜYGGに投資をしたのか?」をサイトに投稿しており、その背景を次のように紹介しています。

Last year, when COVID swept into the Philippines, nearly 7.3 million people in the country lost their jobs and their livelihoods as the country went into lockdown. A rural province of Nueva Ecija, near Cabanatuan City, was particularly hard hit when the local economy came to a grinding halt. In response to the suffering, Gabby Dizon, a local gaming entrepreneur, began lending out his characters in a game called Axie Infinity to different people in his community. These characters, called “Axies,” were used to earn tokens in the game that could be exchanged for local currency.(コロナがフィリピンに上陸した昨年(2020年)、フィリピンでは730万人近くの人々が職を失い、国がロックダウンされて生活の糧を失いました。特に、カバナトゥアン市に近いヌエバ・エシハ州の農村部では、地域経済がストップし、大きな打撃を受けました。ゲーム会社を経営するギャビー・ディゾンは、「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」というゲームのキャラクターを、地域のさまざまな人に貸し出しました。このキャラクターは「アクシーズ」と呼ばれ、ゲーム内でトークンを獲得して地域通貨に交換することができます)

Axieの紹介動画を見ると、いかに人が生計を立てるために頑張っているかが伝わってきます。そこで、コロナの逆風に絶望しそうな人々に対して、「Play-to-earn」ゲームを紹介すれば助けることができるのではないかと着想したのがYGG創業者のギャビー・ディゾン(Gabby Dizon)でした。彼は長年ゲームのプロデューサーを勤めて、2018年からブロックチェーンゲームの世界で挑戦を始めました。

(図:Axie HPより)

 2.2 市場のアンバランスから生まれた斬新なビジネスアイデア

フィリピンを拠点とするYGG創業者のギャビーは、当初はスマートコントラクで「どこまでゲームを変えることができるか」を模索していました。
最初にNFTゲームに注目したのは、Dapper Labs社の猫の育成ゲーム「Crypto Kitties(クリプト・キティーズ)」でした。そして、あるときに同じく東南アジアのベトナムを拠点とする「Axie」のファウンダーから誘われ、Axieのプレイを始めました。
すぐに「Play-to-earn」の新たな仕組みに心をつかまれましたが、Axieのプレイを始めるのには3体のモンスターを購入する必要があり、フィリピンには最低でも初期費用となる約600ドルを払える人が少ないとわかりました。コロナが蔓延して以降は、なおさら手を出せる人が少なくなっていました。
一方で、ギャビーはNFTキャラクターを買っている一方で、ゲームをプレイする時間がない、運用できていないユーザーの存在を気づきました。ならば、ゲームをプレイしたい人たちと、NFTキャラクターを運用できてない人たちをマッチングすればよいかもしれない。彼はそこに高いポテンシャルを感じました。
少しだけ詳しく解説すると、クリプトの初期ユーザーは大量のNFT資産を有しており、常に新しいブロックチェーンのプロジェクトに対して投資する傾向があります。特に、NFT領域では、よくわからないけど「とりあえず買ってみた」というユーザーが大量にいます。
そうした大量にNFT資産を持つユーザーに対して、「Play-to-earnで運用するから、貸してください」とYGGがお願いすれば、お互いWin-Winです。ギャビーは「NFT界のUber」として、こうしたNFTを元手がない”クリプトギグワーカー”たちに貸し出して価値をあげる仕組みを構想したのです。
(参考:Interview with Gabby Dizon of Yield Guild 2021/08/25 Harmony Protocol)


3. YGGとは何か?:NFTゲームを支えるエコシステムビルダー

では、YGGはどういうサービスを具体的に提供しているのでしょうか。ひとことで簡単に言えば、「Play-to-earn」NFTゲームの原資を提供する会社です。

(イメージ画像:外部記事&各会社HPにより)
YGGを利用には、まずプレイするための原資(NFT)を借りるため、「スカラーシップ(Scholarship)」という制度に申請して通る必要があります。その第一歩は、YGGコミュニティのバッジを獲得することですが、これはYGGのホームページに行けばすぐできます。(*ガス代が高いのでご注意ください)

次にスカラーシップの申請です。YGGのDiscord(グループチャットができるサービス)の中にいるコミュニティマネージャーに申請を出す必要があります。たとえば、基礎情報、自分のプレイできる時間、なぜ申請したいのか、などを書き込みます。これは本当に「大学の奨学金を申請する」ような感覚で行われています。

そしてコミュニティマネージャーに選抜されたら個別に連絡が届きます。そしてプレイに必要となる3体のAxieモンスターが渡され、新たなYGGメンバーとなったゲーマーはAxieの対戦ができるようになります。
Axieでは他のゲーマーと対戦するか、ストーリーラインに沿って戦うかのどちらかでプレイします。対戦に勝ったら「9 SLP〜17 SLP(ゲーム内トークン)」が配布されるので、2021年8月26日の時点の相場だと約150円ぐらい稼げます。1日2時間ほどを1か月プレイすると、だいたい5〜10万円ぐらいの収益が期待できる仕組みです。

(図:Axie Infinityホワイトペーパーより)
そのゲームをプレイして得た収益をYGGと分配していくのですが、その割合はゲーマーが70%、YGGが30%の配分になります。そのうち、さらにYGGとコミュニティマネージャーが分け合うイメージです。

では、YGGが目指すものは何か? 彼らはNFTゲームのエコシステムを支える存在であり、その目指す世界観は次に書いてあるビジョンのように「ゲームメタバースの世界」です。

彼らが提供するサービスは「Axie」に限りません。ゲーマーが好む内容であり、「Play-to-earn」で稼げるNFTゲームであれば、YGGはそのゲームの入り口というべき役割を担います。
さらに、事業として「新規のNFTゲーム」に出資をしています。

現在は前述の「Axie」を中心として展開していますが、これからはTSB Gaming社の「The Sandbox(マインクラフト系のゲーム)」、Nplus社の「League of Kingdoms」(対戦系のゲーム)といった有望なNFTゲームにも拡張する予定です。
またYGGトークンを発行しており、今後はNFTゲームの種類が増える度に「サブDAO(YGGの子組織と理解していただいて大丈夫です)」を立ち上げて、専用トークンを発行していることも視野に入れています。
つまり、今後YGGはゲームのホールディングス・カンパニーのように、NFTゲームの「資金・ゲーマー・NFTコンテンツ」という三つの要素、NFTゲームのゲームメタバース世界における”ハブ”になろうという動きが読み取れます。
Axieの普及がYGGの拡大に大きく寄与していることから、同モデルを他ゲームにコピーしたとしても高成長できる可能性が高いと私は考えています。
結論です。冒頭で言及したように、現在のNFTゲームは「一般層まで普及させる」ことが課題となっています。単に「面白さ」だけで勝負するものではありません。なぜなら、NFTの概念自体を理解するのが難しく、NFTゲームを遊ぶのに暗号通貨のウォレット接続といった手続きを覚えなければなりません。
さらに言えば、普通の人からすると最初に遊ぶための初期投資は、驚くほど高い金額です。ゆえに、収益を参加者全員に分配するYGGの手法は、NFTゲームを普及させるために良い方法と考えられます。そうしたエントリーのコストを無くして、ゲーマーを増やすことはNFTゲームのエコノミーにとって新たな方向性であり、一つの「革命」だと思います。
新たに描かれるNFTビジネスの全体は以下のようになると考えられます。

YGGはエコシステムビルダーの位置付けとなり、 「Play-to-earn」ゲームを大きく加速するだけでなく、その成功により多くのゲーマーを刺激します。稼げるNFTゲーム、価値を上げられるプロジェクトを「発見をしよう」というユーザーにとってのインセンティブを強化し、それに拍車をかけることになるはずです。

4. 最後に

今のNFTビジネスの現状を定義するのはむずかしいことです。コレクタブルNFT、NFTゲームも、一面を表しているにすぎません。その用途は多岐にわたります。
しかし、YGGのように新たな手法でNFTゲームを活性化させるプレイヤーが登場するなど、多方面から様々なビジネスのプレイヤーが出ていることにより、NFTビジネスやデジタル資産に大きなポテンシャルがあることを証明していると考えられます。
私はZ Venture Capitalのキャピタリストとして、この半年間のブロックチェーン・NFT関連のリサーチを通じて、知識がゼロのところからNFTの無限のポテンシャルを感じるようになりました。
本noteに登場した「Crypto Kitties」や「NBA Top shot」を手がけるDapper Labs社のファウンダーにインタビューした際に、彼からこんな言葉を聞きました。

「 NFTはまだ黎明期です。その価値を理解できる人がまだ少ないと思います。しかし、私たちは「納得できない人」を説得したりはしません。私たちは、ユーザーファーストでNFT技術を提供することだけに集中します。新たなIPの獲得。新たな遊び方の発明。とにかくブロックチェーンだからこそ、楽しいコンテンツの開発をしたいと思います」

また、米国の有名クリプトファンドのパートナー数人にヒアリングをして、さらなるブロックチェーンとNFTの”これまでにない価値”を感じました。現在、Dapper Labs社に続くように、AxieもNFTゲームの持つ”独自の魅力”をユーザーへ示すことに成功しました。そして今回ご紹介したYGGはNFTゲームのエコシステムビルダーとして「資金・ゲーマー・NFTコンテンツ」においてWin-Winの関係をもたらしています。今後もますます良い体験をつくることでしょう。
私であり、Z Venture Capitalは、このNFTを取り巻く世界の流れにおけるわずかな変化も見逃さず、ベスト・ファーストフォロワーになりたいと考えております。
もしNFTにご興味のあるスタートアップの方は、お話しましょう。Twitter(@lucheng_li)のDMなどで、ぜひご連絡ください。