中国SNS「SOUL」の衝撃 -メタバースはどこからやってくる?-

中国SNS「SOUL」の衝撃 -メタバースはどこからやってくる?-

こんにちは。Z Venture Capitalの山下(Twitter:@JP_YJC)です。メディア・エンタメ領域での投資を行なっています。
今日は、中国でシェアを急拡大し、中国SNSで4番手に急遽躍り出た「SOUL」というSNSに見る、Z世代向け雑談SNSと、メタバースのトレンドについて考察していきます。

目次

  1. Z世代をターゲットに急成長するSOUL
  2. 「雑談SNS」が次々と生まれている
  3. なぜZ世代にヒットしたのか?
  4. 「雑談SNS」はメタバースに進化していく
  5. 最後に

Z世代をターゲットに急成長するSOUL

2021年5月、中国のSoulgateという企業が約2,000億円というvaluationでNasdaqに上場申請を行いました(申請後の経緯は後述します)

https://36kr.jp/132771/

Z世代をコアターゲットとした「SOUL」と
いうマッチング・雑談SNSを提供しているのですが、とにかく業績の伸びが凄まじく、2019年時点で12億円という実績から今年度の売上のペースはQ1実績(40億円)から予測すると160億円に届きそうな急成長を遂げています。


SOULはどんなSNSなのかというと、サービス内でマッチングした近い性格の人と通話し、友達作りをするSNSです。


アカウント登録時に性格診断を行います。ユーザーは「惑星」と呼ばれ、診断結果に基づいて近い性格群の惑星同士がトップ画面やTwitterのようなタイムラインに表示されるようになります。
このサービスの最大の特徴は、ランダムマッチングの通話機能で、通話して仲良くなった人と友達になれば、ユーザー間でチャットも行えるようになります。
他の特徴としては、プロダクト全体を通した投稿ハードルを徹底的に下げるサービス設計が挙げられます。

例えば、誰もフォローしなくても勝手にレコメンドされるタイムラインや、プロフィールをアバター限定にして顔出しNGにするなど、インフルエンサー的ポジションのユーザーが生まれづらい仕組みになっています。
また、アバター機能は課金要素にもなっており、ヘビーユーザーは自己表現のためにアバターに課金することも可能です。ユーザー課金は他にも他人の「足跡」がわかるなど、オプションが利用可能になるサブスクリプション課金も実装しています。
このような友達作り〜通話体験を提供するSNSをこのnoteでは「雑談SNS」と呼びますが、このカテゴリは中国だけでなく、各国で急成長を遂げています。

「雑談SNS」が次々と生まれている

米国VCのAndreessen Horowitzのソーシャルカテゴリの調査では、昨年最も伸長したSNSカテゴリはSOULと同じ「雑談SNS」(以下グラフではFriend Discovery)でした。

実際に、SOUL以外にも複数のスタートアップがこの領域で大型資金調達に成功しています。
例えば、フランスではYuboという雑談SNSが、直近ラウンドで$47.5M(52億円)の大型調達を行ない、Twitter,Uberなどへの投資で知られるBenchmarkもラウンドに参加しています。

Yuboは同世代同士でマッチングし、ライブチャットやテキストチャットなどでコミュニケーションを取り合うサービスです。

100万DAUを突破しており、コロナ禍の2020年以降にDAUが急速に成長しました。ユーザーの99%を13-25歳といった若年層を占め、平均年齢は17歳とZ世代に特に人気の雑談SNSです。
米国でも、Itsmeという雑談SNSがユーザー数を伸ばしており、直近のラウンドでは$15M(16.5億円)ほどの大型調達に成功しています。

Yuboがインカメのリアルフェイスで会話するのに対して、Itsmeはアバターを使って会話するのが最大の特徴です。

アバターを使った1 to 1での会話や、テキストチャットを行うのが主要な機能で、アバター課金要素もあります。
グロースしたきっかけはTiktokでZ世代を中心としたミーム化が背景にあり、このようなTiktokの投稿がバズった結果、ユーザー数がコロナ禍でさらに急増しています

このように、「雑談SNS」は現在中国だけでなくグローバルで大型調達に成功しているカテゴリです。
次になぜ彼らが急成長したかの背景を、ターゲットであるZ世代に紐づいて二つ、ご紹介していきます。

なぜZ世代にヒットしたのか?

1.ネット上で友達を持つことに抵抗感がないZ世代
米国のとある調査結果では、Z世代の57%は「ネット友達がいる」と回答しているというアンケート結果が見られました。Z世代の彼らにとって、ネット上で完結する友達が居ることは自然なことになりつつあります。

こうした背景には、TiktokやInstagramといった若年層向けSNSの普及が挙げられると思います。
TiktokやInstagram、TwitterといったSNSはレコメンドのロジック上、エンゲージメント率の高いインフルエンサーの投稿をレコメンドされ、常にタイムラインに表示されます。
その結果、投稿がSNSのロジックに評価されない、大多数のユーザーがSNSで新しく友達を作るには、自分から見ず知らずのユーザーにフォローやリプライなどで絡んで認知してもらい、少しずつコミュニケーションを取って仲良くなる必要があります。
共通の趣味・話題があれば、絡みやすいですが、そうでもないと仲良くなるのってなかなか難しいですよね・・・
「ネット友達」を持つZ世代が増加する一方、既存SNSでは「ネット友達」を作るハードルが高い訳ですが、雑談SNSではマッチングの場を提供することでユーザーの不を解決しています。

2.リアルタイム性の重視
2017年以降、不可逆的な変化としてUGCプラットフォームで起こっているのは、コミュニケーションがリアルタイムかつ、インタラクティブになっているということです。

ライブ配信サービスの台頭により「リアルタイムで意思疎通する」というのはサービス体験として当たり前になりました。
テキストを中心とするメディアには「情報を整理して発信する」というメリットがありますが、限られた時間で密度の高いコミュニケーションをするのはライブ配信サービスが圧倒的に有利です。見ず知らずの人と初めて出会い、お互いのことを知るにはそれなりのラリーが実際必要ですよね。
実際に既存SNSも音声・ライブ機能の実装がかなり進み、clubhouseも話題に上がったことがありましたが、これらのSNS型の音声ライブサービスには、まだキラーコンテンツが見つかっていないように思えます(一方、HimalayaといったUGC・PUGC系はキラーコンテンツの型が明確になってきています)
雑談SNSは「知らない人と話す」「友達になる」というコア体験そのものがキラーコンテンツであり、特にネット友達を作るのに抵抗のないZ世代を中心として大きな差別化ポイントとなっているのではないでしょうか。
こうした時代の変化も、雑談SNSがウケる理由に挙げられます。

「雑談SNS」はメタバースに進化していく

「雑談SNS」はZ世代を中心に爆発的にグローバルでユーザー数を伸ばしていますが、将来的にはどうなっていくのでしょうか?
②で、UGCプラットフォームのインタラクティブ化を紹介しましたが、ハードウェアが環境変化で重要なファクターとなっていました。スマホ4G・5G時代の次に注目されているデバイスは間違いなく、VR、ARでしょう。
実際にFacebookは、メタバースと呼ばれる、仮想現実内でユーザー同士が繋がれる世界の実現に5,000億円の投資を発表しました。
news.yahoo.co.jp
冒頭ご紹介したSOULも、実は上場申請後、上場する前日に突如上場を取りやめ「原神」を開発・提供するゲームパブリッシャーのmiHoYoから約98億円の資金調達の実施に切り替えました。
36kr.jp
上場申請後、あまりにも衝撃的な幕引きだったのですが、この調達にも「メタバース」の実現が背景にあると見られます。
miHoYoは「原神」といったオープンワールドゲームを提供しており、すでに高品質な仮想現実の空間を開発・提供しています。
一方、Soulgateはユーザー間のソーシャルグラフ(SNS上の繋がり)と、音声通話サービスをすでに持っており、仮想現実とソーシャルグラフというメタバースに欠かせない最大のパーツを両者は保有しています。
miHoYo×Soulgateは、Facebookと同じ仮想空間のコンテンツとソーシャルグラフというアセットを持ってメタバース構築に挑んでおり、当社のmissionも若者の「魂」の社会的メタバース、とメタバースをかなり強く意識していることがわかります。

SNS領域は、常にソーシャルグラフを持つものが優位にゲームを進めてきました。FacebookがグローバルでInstagramの垂直立ち上げに成功したのも、まさにFacebookのソーシャルグラフを活用したネットワーク効果を生んだからに他なりません。
メタバースが(ブロックチェーンなどの要素は一旦置いておいて)XRデバイスに最適化されたアバター同士で交流するSNSだとすれば、「雑談SNS」のプレイヤーは、すでにソーシャルグラフの構築に乗り出しており、ユーザー基盤をいち早く手に入れ始めていることになります。
このメタバース黎明期に雑談SNSを垂直立ち上げし、黎明期に獲得したユーザー基盤を基にメタバースを構築するプレイヤーが増えていくか、はたまた別の登り方で山を登るものが現れるのか、今後の動きに期待です。

最後に

ここまで読んでいただきありがとうございました!
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参考文献
https://min.news/en/economy/3d2fabb813eb002051317106296effc2.html