STONE.B × ZVC対談 / 日韓のエンタメをつなぐ魔法 『mahocast』が描く未来

by Shogo Takahashi

いまこの記事を読んでいる方の中に、K-POP界の女王・IU(アイユー)や、TWICEの妹グループ・NMIXX(エンミックス)といったK-POP界を牽引するアーティストの日本公演の告知を見たり、実際にライブに足を運んだりした方も多いのではないでしょうか。

こうした日韓のエンタメの架け橋といえるイベントを企画・主催しているのが『mahocast』であり、この『mahocast』を運営する会社が、先週、Z Venture Capitalが出資を発表したSTONE.Bです。

mahocastの強みは、単にイベント運営だけではなく、圧倒的な日韓のネットワークを武器に、一流アーティストのライブ企画からファンクラブやチケット・グッズ販売までをワンストップで提供できることにあります。

そこで今回、STONE.Bを紐解くために、STONE.B代表取締役のチョ・ユンサンさんと、出資を担当したプリンシパルの亀岡千泰が対談。資金調達の舞台裏から、未来の展望、そして仲間へのメッセージまで語り尽くしました。

【株式会社STONE.B】

2017年に日本でIT企業として創業。現在は多様なK-POPアーティストの公演に加え、チケット販売サービスおよびファンクラブ・プラットフォームを運営しています。


【対談者プロフィール】

株式会社STONE.B 代表取締役 チョ・ユンサンさん

延世大学校・社会福祉学科を修了後、現代グループの広告代理店に入社。大型の政府イベントをはじめ各種企業イベントの企画・運営を担当。その後、歴代2つの政権の大統領秘書室にて行政官として勤務し、「大韓民国ミレニアム・プロジェクト」の担当や国家広報システムの改編に参画。韓国取引所(KRX)では広報企画チーム長を4年間務め、李御寧(イ・オリョン)初代文化部長官とともに「セサル村プロジェクト」など多様な文化コンテンツを企画。2017年に来日し、STONE.Bを創業

Z Venture Capital Principal 亀岡 千泰

早稲田大学法学部、同大学院法務研究科修了後、西村あさひ法律事務所を経て、YCP(コンサル・投資事業)に参画。西村あさひ法律事務所では企業法務の弁護士としてM&A・コーポレート業務に従事。YCPでは幅広いフェーズの企業に対して新規事業創出や戦略作成・経営改善等のコンサルティング業務に従事したほか、自社の投資部門において投資検討・実行・バリューアップ業務に携わり、投資先の取締役を務める。2023 年1月よりZVCに参画


「mahocast」に込めた想いと日本での事業


亀岡:チョさん、今回はお時間をいただき、ありがとうございます。私自身韓国アーティストのライブによく行くこともあり、今日の対談を楽しみにしていました。

チョ:亀岡さんの韓国エンタメに関する理解は本当に深いと思っています(笑)。


亀岡:まず韓国出身のチョさんが、日本でSTONE.Bを始めたきっかけを教えてください。

チョ:最初はIT会社としてスタートしました。企業に必要なITシステムを設計し、ソフトウェアやハードウェアを組み合わせて導入・運用までを請け負うSI事業が中心でした。

創業してすぐに、韓国の地方局からメディアシステム全体の開発を任されました。自社のメディアシステムを持てたことで、その仕組みを使って自社サービスを作りたいと思ったんです。どんなサービスがいいか考えていたとき、TwitterからInstagramへと流れが変わっていくのを見て、その先はライブ配信の時代だと確信しました。


亀岡:具体的にはどういったことを考えられたのでしょうか。

チョ:当時の配信は、たくさんのユーザーを集めて投げ銭で稼ぐやり方が主流でした。でも、私たちのような小さな会社には合わないと考えたんです。そこで、視聴するにはチケットを買ってもらう有料の仕組みを作りました。これが今の「mahocast」の始まりでした。

当時の日本では、このようなサービスはまだ珍しく、「配信でチケットを買うの?」というところからスタートでした。皆さんも記憶にまだ新しいと思うのですが、サービス開始して半年したころ、コロナ禍で皆さんの生活スタイルが一変し、対面でライブを聞くことができない環境下で、ライブ配信需要が大きく高まっていきましたね。


亀岡:確かにあのとき、密対策で音楽ライブなどは制限がとても大きかったですね。

チョ:そうなんです。そうした環境もあって次第に広がりを見せていきました。例えば、AKBのユニットグループや、男性人気アイドル、それに演歌だと石川さゆりさんとか、様々なアーティスト配信も多数実施しましたね。そして、韓国のアーティストからも配信の依頼が増え、その後、配信だけではなく、ライブ公演の依頼も多く寄せられるようになりました。


亀岡:それはすごいですね!ちなみに『mahocast』の名前にはどんな思いを?

チョ:mahoは「魔法」のイメージです。魔法を使ってアーティストを世界的に有名にしたいという意味が込められています。そしてcastは「放送局」としてそのプラットフォームを展開したいという想いで名付けました。


亀岡:『mahocast』の強みはどこにあると考えていますか。

チョ:「mahocastと組むとすごくやりやすいし、楽しい」と言っていただけるのが、私たちの一番の強みだと思っています。日韓のネットワークに、両国の文化やビジネスの違いへの理解が乗ることで、最適な調整からシナジーづくりまで一気に進められるんです。

それに、私たちはテックが土台にあります。自社のプラットフォーム上でチケット販売・ファンクラブ・グッズまで一体で回せる。この包括的な運用は、簡単には真似できないポイントだと思います。


STONE.BとZVCの出会い


亀岡:STONE.BとZVCの最初の接点から投資に至るまでの話にも触れたいと思います。

初対面からチョさんはすごくエネルギッシュでした(笑)。そして何よりその時に話して頂いた内容が印象的でした。mahocastはイベントの制作にとどまらず、すべてワンストップで行っていると聞き、「あ、これは可能性があるな」と感じました。少し余談になりますが、私がチケットを買っていた韓国のNMIXX(エンミックス)の来日公演も、実は主催がSTONE.Bだと知って、運命を感じましたね。

チョ:私もこの業界や日韓のエンタメに詳しい亀岡さんとお会いできたのは幸運だと思いました。業界をよく知っているからこそ、何がビジネス上で重要なポイントなのか、そして課題や改善すべき点はどこにあるのか、これらをやりとりできるのはとても重要です。私たちが主催していたNMIXXのライブチケットを買ってくれたことも嬉しかったですね。1人のファンとして見に来てくれたことも感謝です。(言っていいのか分かりませんが、亀岡さんは一番高いVVIPチケットを買って来てくれました。ありがとうございます)。


亀岡:そして投資に至るまでの経緯で言うと、特に良いと感じた点は大きく3つあります。

まず1つ目は、STONE.Bが、単純な制作だけではなく、企画・運営・ファンクラブ、チケット・グッズ販売など、バリューチェーンのほぼすべてをワンストップで提供できていることです。これを他に出来るプレイヤーがほぼいないのは強みですね。全部できるからこそ、持続的にスケールアップしていくポテンシャルがあると感じています。

2つ目は実績の素晴らしさです。K-POPに詳しくない人に向けて言うと、IUやNMIXXのイベントをスタートアップが手掛けるということは本当に驚異的なことなんです。IUは、韓国トップ中のトップ、名実ともに韓国の歌姫と呼ばれるアーティストです。NMIXXも韓国最大手の事務所JYPエンターテインメントが送り出す次世代の主力アーティストです。


3つ目は、これからのアップサイドとして、グローバルにも展開できる会社だと感じたことです。K-POPは、今後も東南アジアやヨーロッパではブルーオーシャンとして広がる可能性を秘めた市場だと考えています。その際に海外でK-POPツアーやイベントを企画・主催できる存在への需要は高まるでしょう。

チョ:弊社はいわゆる“エンタメ一本”の経営陣ではありません。自社のシステムを土台にプラットフォームを回しつつ、公演の主催や制作を地道に積み上げてきました。これは韓国の業界でも少し珍しい形で、その分、良い信頼につながっていると感じています。


亀岡:チョさんは韓国の政府関連のイベントも企画運営されていたと伺ったことがあります。そうした背景も、信頼感が増す要因だと思います。

チョさん:私をはじめ、共同代表であるキム・ウジェ取締役も、韓国と日本を頻繁に行き来しておりますが、韓国では長年にわたり築いてきた関係性のおかげで、芸能事務所や制作プロダクションから「次のイベントをお願いします」とか「会場を一緒に探していただけますか」といったお声がけを、こちらから営業活動を行わずとも次々といただいております。

何よりも、長年にわたり信頼を積み重ねてきたパートナー各社の存在に支えられていると実感しています。


亀岡:ネットワークがあるというのは、本当に魅力的ですよね。

チョ:例えば、韓国でBTSが所属する韓国大手事務所のHYBE(ハイブ)は、レーベルやマネジメント、グッズ販売、オンライン配信など、すべてを網羅的に行います。実際、HYBEの会長であるパン・シヒョクさんも「私たちはエンタメの会社ではなく、IPの会社」と言っています。

一方で、日本ではファンクラブ、レーベル、マネージャー、イベントまですべてそれぞれ別会社が担当することが主流です。これはとても複雑なんです。本来、一括ですべて担当できる会社があれば一番効率的なんです。これがSTONE.Bができる強みだと思います。


LINEヤフーへの期待と採用


亀岡:チョさんとして、ZVCと話を進めるなかで期待したこと、そして今後の展開で期待していることを教えていただけますか。

チョ:基本的には、韓国のアーティストが日本に出ていくときは、まずLINEアカウントを使ってマーケティングできるのが一番だと考えています。そして、日本のアーティストがグローバルに展開する場面でも、LINEの公式アカウントを使い、LINEミニアプリと連携してPayPay決済までつなげられると面白いと思います。LINEヤフーのマーケティングやプロモーションの力はやはり強いので、そこにSTONE.BのIPを掛け合わせれば、大きなシナジーが生まれるはずだと見ています。


亀岡:LINEアカウントは、チケットやグッズへの導線にもなりますし、アーティストとはとても相性が良いプラットフォームだと思っています。それをmahocastと組み合わせることで、可能性が広がっていくと思います。

また、ZOZOはK-POPアーティストのグッズも販売していて、例えばZOZOフェスでは、LE SSERAFIMというK-POPアーティストのオリジナルコラボアパレルを販売しています。そうした意味でも、今後、できることが多々あるのではないかと考えています。

チョ:はい、まさにそのとおりです。今いちばん期待しているのは、いろいろなK-POPアーティストとZVCのパートナー企業との協業モデルです。公演ビジネスを越えて、アニメのタイアップやブランドコラボなど、アーティストの“ブランド力”を土台に事業を広げていくことで、良い成果につながると考えています。


亀岡:採用についても聞いていきたいと思います。今、STONE.Bには何人のメンバーがいるのでしょうか。

チョ:契約社員も含めて、35名です。mahocastの事業チームは、開発が3名、デザイナーが1名、ファンクラブを含む事業担当がだいたい5名です。


亀岡:今の採用で力を入れている分野はありますか?

チョ:特に、ライブ・イベント公演の制作全般を担当できる人材と、日本でtoB営業ができる人材を探しています。加えて、STONE.Bのビジネスを拡大するには、日本企業とのネットワークが必要です。業界への理解があり、音楽好き、というのが挙げられます。日本の方で30代から40代の管理職としてチームを引っ張っていける方であれば嬉しいですね。


亀岡:会社の雰囲気としてカルチャーフィットする方はどういったイメージですか。

チョ:自然と会社には明るく、エネルギーがある方が集まっています。そして一緒に食事をしたり、韓国旅行に行ったりと、交流もあります。また、社内ではK-POPについて学ぶ機会が豊富です。みんなで食事をしながらK-POPの音楽を聴き、「このバンドいいよね」とか「最近このアイドルデビューしたね」といった話もできるので、K-POPに興味がある方には絶好の学びの場になります。


亀岡:「好きなことが仕事になる」といったことが、1つの強みになりそうですね。

チョ:それは間違いなくあると思います。社員からも「追加の仕事を」とか「この仕事も担当させてください」といった”圧”をかけられることがあります(笑)。本当に仕事への熱意が強く伝わってきます。仕事を「やらされている」のではなく、皆が本当に「やりたくて楽しんでいる」という感じです。


亀岡:素晴らしい環境ですね。最後に採用候補者に向けたメッセージもお願いします。

チョ:これから、K-POPアーティストと日本企業、そして日本のIPと組んだ面白いコラボをどんどん仕込んでいます。ファンクラブやライブ、グッズだけじゃなく、ZVCのネットワークもフル活用して、もっと幅広いビジネスモデルを作っていきます。私たちと一緒に新しい未来をつくっていける方からのご関心を、心からお待ちしています!

また最後に、日本のエンタメ業界の皆さまへ、ひと言だけお話ししてもよろしいでしょうか。

今回はK-POPの日本公演の話が中心でしたが、日本のアーティストの韓国や海外での公演・ファンミーティングも、弊社の大切な事業です。ご興味のある事務所・レーベル・プロダクションの皆さま、ぜひお気軽にご連絡ください。


亀岡:本日はありがとうございました!


STONE.Bの採用に関心がある方はこちらよりご連絡ください