
日本に“来てよかった”をつくる――Linc × ZVC が描く外国人材エコシステムの現在地と未来
by Shogo Takahashi
Z Venture Capital(以下、ZVC)は、外国人材向けに就職から採用後の研修育成まで一気通貫でサポートする株式会社Linc(以下、Linc)に前回ラウンドから引き続きリード投資家として出資しました。そこで今回、LincのFounder&CEOの仲 思遥さんと、ZVCのPrincipal、内丸 拓が対談。
“日本に来てよかった”を実現したい——その言葉を掲げる想いとは? “働くこと”を通じて地域と世界をつなぎ、日本の未来に持続可能な選択肢をもたらす挑戦の今に迫ります。
対談者プロフィール

株式会社Linc Founder&CEO 仲 思遥(なか しよう)さん
中国出身。高校卒業後日本へ留学。慶應義塾大学法学部卒業後、野村證券の投資銀行部門にて国内外のIT業界におけるM&Aび資金調達業務に従事。自身が外国人ということもあり、急激に少子化が進み労働需要が高まる日本において外国人材が活躍でき、多様性と包容力溢れる社会を実現すべくLincを創業。外国人材の日本における「働く」「学ぶ」「暮らす」を支えるプラットフォームを展開

Z Venture Capital株式会社 Principal 内丸 拓
京都大学工学部、同大学院情報学研究科修了後、General Electric(GE)を経て、経営共創基盤(IGPI)に参画。GEではヘルスケア / エネルギー / オイル&ガスの事業部門において経営企画・管理業務に携わり、IGPIではスタートアップから大企業までの幅広いフェーズの企業に対して事業成長 / 新規事業創出 / 事業再生の支援に従事。2022年5月よりZ Venture Capitalに参画
「日本に来てよかった」を最大化する、その想いについて
Q:まず、現在のLincの注力事業について教えてください。
仲:いま注力しているサービスは「Linc Global Hub(グロハブ)」です。
外国人材の採用から入社、その後の活躍支援やビザ更新を含めた定着支援まで、一気通貫で提供するプラットフォームです。AIを活用して企業に最適な外国人材を推薦し、マッチングから入社後の定着支援までオールインワンで実現する仕組みをつくっています。

Q:導入実績はどうですか?
仲: Linc Global Hubは、約4,300店舗に導入されています。外食業界を中心に導入が加速していますが、最近ではホテル業界の導入も増えてます。
例えば、富士急行グループのハイランドリゾート社ではインバウンド人気が爆発している地方の人材不足に対応するために導入され、全外国人材の採用とプロセス管理がグロハブ上で実現しております。
今後は、建設業や物流業にも展開していきたいと考えており、近いうちに大きな発表を予定しています。私たちの目標は、あらゆる業界における外国人採用のデフォルトプラットフォームになることです。
Q:Lincの「日本に来てよかった」というミッションを掲げた背景には、何があったのでしょうか。
仲:私自身の就活経験から、日本の複雑な就活ルールが理解できず、優秀な外国人材が日本に残れないことがもったいないと思ったのがきっかけです。
私が就職活動をしていた2013年頃は就職氷河期でした。そのうえ、外国人材にとって、日本の就活ルールは少し複雑なんです。
例えば、ある面接会で「このインターンは本選考と関係ありません」と言いつつ、実際にはそこから選考が始まるケースがありますよね。また、某銀行のセミナーでは、「お茶をしましょう」という感じで招待されたのですが、行ってみるとそこにお茶はなく、いきなり「では、自己紹介からお願いします」と言われたことも。また、「カジュアルで来てください」と言われたので、Tシャツとジーンズで行くと、私以外は皆さん黒スーツだったこともありました。
こうした仕組みが分からないまま、優秀な人材が残れないことは本当にもったいないと思いましたね。そのため、優秀な方が1人でも多く日本に残り、本当の意味で「日本に来てよかった」と思えるようにしたい、というのが背景にあります。

(2012年にキューバで地元の小学生と一緒に映る仲さん)
Q:当時の想いは、いまどう変化していますか?
仲:結婚して子供ができてから考え方に新しい視点が加わりました。子どもが2歳になり、保育園に通い始めると、特に外国人が多い地域ではないにもかかわらず、保育園には外国にルーツを持つ子やハーフの子、2世の子たちが何人もいました。
彼らが成人する2040年頃、統計によると日本の人口が約8,000万人に減少すると言われています。そうした中で、彼らが活躍できなければ日本は厳しい状況になると思うようになりました。バックグラウンドや出身に関係なく活躍できる環境を作ることがとても重要です。
次世代のためにも「日本に来てよかった」と思える社会を作りたい。子供ができてから、この考え方がより強くなり、彼ら彼女らに「何を残せるのか」という使命感も強くなりました。
ZVCがフォローオン投資を決めた理由とLYとの構想
Q:ZVCとして追加出資を決めた理由について教えてください。
内丸:率直に「投資しない理由がない」という一言に尽きます。
もう少し分解すると、いくつかの理由があります。
まず第一に、仲さんへの信頼感です。
私と仲さんはこの1年間、とても密に関わってきました。私は社外取締役として参画していて、頻繁にやり取りをしています。
仲さんが事業にどう取り組み、会社をどう成長させたいのか、どんな世界を創造したいのかについて、この間、非常に深く理解することができました。
仲:ありがとうございます。ここは私自身も危機感が強いですね。「戦時モード」の状態で、いかに事業を成長させるかが重要だと、常に感じています。
内丸:もう1つは、事業のポテンシャルです。
初回投資時は、ベータ版がリリースされたばかりの段階でした。それから1年が経ち、成功した部分、まだ課題が残る部分、双方ありますが、非常に大きなポテンシャルを感じています。
これまでのLincは、外国人材の採用がメインでした。採用以外の領域について、1年前は「こうしたことができるかもね」という域に留まっていたアイデアが、今では具体的な実現性も見えてきました。KPIの実績を含めて、いまのLincはとても素晴らしいと思います。
そして3つ目は、チームの質の高さです。
優秀な人材が次々と加わり、素晴らしい成果を上げています。仲さんが一人でできることには限りがありますが、経営陣だけでなく現場チームも含め、とても優れた組織が出来ています。
まとめると、投資判断の3つの柱は、1つ目が起業家としての仲さん、2つ目が事業のポテンシャル、3つ目がチーム力。この3点から「投資しない理由がない」と判断しました。

(Lincの顧客先でもある串カツ屋にて)
仲:当時はまだ、「この仮説はうまくいきそうだけど、実際にやってみないとわからない」という段階でした。それでもZVCから投資していただいたことは、本当にありがたかったです。
内丸:当時から、明確な方針に基づいた仮説があり、「これはうまくいきそうだ」という手応えを感じていました。それから1年が経ち、今ではその手ごたえは確信に近いものになっています。もちろん、仮説の中には当たったものも外れたものもありますが、核となる部分はかなり当たっていると感じており、この事業が本当に成功できる状況になってきています。
Q:仲さんにも伺いたいのですが、引き続きZVCにフォローオン投資の相談をしようと考えたのは、どうしてだったんでしょうか?
仲:他のVCからも「ぜひ」という話はあったのですが、私の中ではZVCが最優先のパートナーでした。鮮明に覚えているのが内丸さんと最初に面談を通じてお話ししたときのことです。
外国人関連の領域は政策も様々あり、頻繁に情報がブラッシュアップされます。かつ時には「外国人材」ということだけで、ネガティブな印象を持たれることがあります。
そのため、多くの方との面談では、最初の面談時に、マーケットの状況や事業の説明にかなり時間を取られていました。時には、「まず、説明の動画を用意しているので、その動画を見てから話しましょう」というようなアプローチを取るほどです。
そうしたなかで、内丸さんと話したときの、解像度の高さに驚きました。
外国人材の活用に関する政策の部分もそうですし、現在の主要プレイヤーがどこにいて、どのような動きをしていて、私たちへどのような動きを期待したいのか、といった点を、丁寧に、リスペクトを持って聞いてくれているのを感じました。
結果として、初回の面談だけで非常に深い議論ができ、「ああ、これは本当にすごい人と出会ったな」と心から感じたのが最初の印象です。
内丸:ありがとうございます。
仲:その後、出資をいただいてからの1年間、内丸さんへは、すべての数字をデイリーベースで共有しています。
私が最も大切にしているのは、悪い状況を隠さないことです。組織や事業の課題をまず率直に伝えることを徹底しています。そのうえで意見をいただいたり、一緒にディスカッションしたりするなかで、まるで共同創業者として仮説を一緒に検証している感覚が強いですね。
そして、もう1つのポイントは、ZVCがLINEヤフーのCVCといったリソースの豊富さです。内丸さんには、LINEヤフーの方を多くの紹介していただいていますし、私たちもLINEを通じてミニアプリを開発中です。LINEヤフーのように、日常生活の様々な場面でサービスを提供している企業との協業は、外部パートナーとして非常に価値のある関係だと考えています。
内丸:LINEヤフーとの連携は、まだまだ可能性があるので、これから仲さんとしっかり伴走していきたい重要な点ですね。
Q:いま、LINEの話もありましたが、今後、LINEヤフーと連携ができたら面白いと考えていることを教えてください。
仲:特に、ユーザー基盤とデータの保有を通じて、シナジーが生み出せたら面白いと思っています。
就職時にはLincのプロダクトを使いたいという理由でユーザーが集まります。ユーザーが就職活動をしている間、様々なライフイベントが日々発生しています。そこに関して、付加価値を高めることが出来れば、ユーザーの維持や口コミにつながります。LINEヤフーは、非常に豊富なサービスラインナップを持っているため、それとLincが今後増やしていくユーザーやデータを活かした連携ができれば興味深いと思います。
LINEヤフーとLincが連携できれば、双方にとって大きなインパクトが生まれるでしょう。そういった連携を模索していきたいと思います。
未来への展望:Lincが求める人材と事業を通じた未来
Q:次に採用についても、ぜひ伺いたいのです。現在、Lincではどのような人材を求めていますか?
仲:いま最も重要なのはビジネスを構築する側、いわゆるビズデブ(事業開発)の部分です。
私たちのサービスではビジネス人材が不可欠で、これを3つの柱として考えています。
・外食業など、外国人材を積極的に採用する業界への深掘り
・研修育成や定着支援といった入社後のユーザー・クライアント体験の強化
・アライアンスによる新規事業の創造
この3つの柱を見ると、それぞれ社内では人材が不足しています。この部分をしっかり構築していきたいですね。そして、いま優秀な人材が多く応募してきているので、絶好のチャンス、最高のタイミングだと思います。
最近、私たちは、中国でエンジニアのフルスタックチームを立ち上げました。現在のAI責任者はアリババ出身です。彼はアリババのティーモールで、サーチエンジンアルゴリズムを設計し、強化学習や機械学習を活用して、ユーザーが検索したときに適切な結果が表示されるアルゴリズムとアーキテクチャーの責任者を務めていました。このように事業成長の要素と優秀な人材が揃えば、私たちの事業は大きく伸びていくと思っています。
また、直近でも、LincにCFOが入社しました。今後、私はバックオフィスや資金調達から少し距離を取り、今まで以上に、プロダクトとビジネス開発に専念していきたいと考えています。

(Lincのメンバー写真)
Q:ありがとうございます。少し広い視点での話になりますが、社会構造として外国人材が増えていくとき、日本やその地域にとってどうなのか、という視点もあります。そこについても事業を通じて、地域をどうしていきたいのか、という想いを教えてください。
仲:その部分は、私たちの重要なキーワードでもあります。
よくニュースでも地方を中心に「人手不足」の話題が上がっています。そうした地方のコミュニティで、外国人の方々がコミュニティに入る、馴染むことが重要だと思います。
ちょうどこのインタビューの前に、北陸のある銀行とお話しをしていました。このなかで、「能登半島地震の後、建設や現場監督、施工管理の人材が非常に不足している」ということを話していました。そういったニーズに対して外国人材が力添えすることで、仕事や日常を通じて、地域の方々と交流し、より密に地域に溶け込むことができます。
「日本に来てよかった」という概念は、地域に対するロイヤリティや愛着から生まれ、皆さんが好んで地方に定着することで、自然と感じることなんだと思います。これこそが本質だと思います。
Q:なるほど。ありがとうございます。もう1つ、そうした方の「暮らし」を支えるのも重要なテーマですよね。
仲:その通りです。例えば、市役所などは、まだDXの余地が多くあります。不慣れな書類の手続きに何時間もかかり、結局”質問して帰るだけ”というケースもあります。そこで、LincがAIを通じてDXを進め、市役所の書類申請や整理を効率化し、現在のグローバルデータと連携できれば、手続きを迅速に進められると考えています。質問にもAIが対応できるようになれば、さらに便利になると思います。
私たちの目標は、単に働く場を提供するだけでなく、日本に定着するための環境づくりを進めることです。国全体や地域全体を視野に入れ、一企業の枠を超えて、皆で協力して取り組んでいきたいと考えています。改めて述べますが、重要なのは、どう定着させるかではなく、外国人の方々が「残りたい」と思える環境づくり・制度づくりです。
Q:最後に、Lincに関心を持つ採用候補者の方に、メッセージをお願いします。
仲:私からのメッセージは3つあります。
1つ目は、Lincが解決しようとしている課題は日本最大の課題だということです。
人口減少と経済衰退—私たちはこの課題に対して、外国人材というアプローチで取り組んでいます。大きな課題に挑戦したい方、一緒に試行錯誤しながら解決策を見つけたい方をぜひ歓迎します。
2つ目は、この課題解決は単なる経済的成功ではなく、次世代に残るインフラになるということです。
日本を変えるには目先の利益だけでなく、中長期的にサステナブルな仕組みが必要です。そのため、未来の日本に大きなインパクトを与えることに共感してくれる方に入社してほしいと思っています。
3つ目は、本当に面白いプロダクトとゴールがあるということです。
現在はまだ課題も多く、足りないピースもありますが、私たちの進む方向は間違いなく正しく、AIやデータを活用して外国人材の活用を革新するというチャレンジは、非常に魅力的です。
また、外食業から建設業まで全く異なる業界に対して幅広く巻き込みながら事業を展開していくという、このようなホリゾンタルな展開は非常に珍しいものです。ぜひ一緒に外国人材事業の成長を実現していきましょう。入社をお待ちしています。めちゃくちゃおすすめです!
【Lincの採用情報はこちら】
https://linc-info.notion.site/Linc-ac6ed9f8b7884b34bd76efdb101174f7