Key Investment Focus Areas for H2 2025 / Japan

Z Venture Capital(以下、ZVC)は、2025年上半期、新たに300億円規模のZVC2号ファンドを立ち上げ、同ファンドを通じて半年間で約20件の投資を実行しました。AI、メディア、コマース、フィンテックなどの注力領域に加え、ディープテック領域として宇宙関連スタートアップへの投資も行っています。

こうした中で、ZVCのキャピタリストが現在何に可能性を感じ、どのような領域に注力しているのか。ZVCが拠点を構える「日本」「韓国」「米国」の各地域から『Key Investment Focus Areas for H2 2025』と題したコラムをお届けします。この記事が新たなスタートアップとの出会いのきっかけになれば幸いです。第一弾は日本からお届けします。

フィジカルAI —— 労働力不足を解消する”身体拡張”


AIの社会実装はオフィスから物理空間へと拡大しています。こうした中で、私が特に注目するのは”フィジカルAI”です。

先日とある地方のコンビニに行った際に、そこは24時間営業ではないことを知り、改めて人手不足や過疎化が進んでいることを感じました。このような背景から、建設・製造・介護・物流といった様々な現場で、人の身体・感覚・判断を拡張する新しい技術が実用化され始めています。これまで難しかった熟練工の技能を学習・再現するロボットや、音声指示・視線入力といった”手を使わない”UIなど、AIのマルチモーダルな進化により、人とAIが共に働く新たな労働構造が生まれつつあります。

日本はロボット大国であり、触手の技術などの研究においては世界に誇る実績があります。ここから世界をリードするスタートアップが誕生するチャンスがあると考えています。


データ×AIインフラ —— 社会実装を支える”データイネイブラー”の台頭


AI活用が普及していくにつれ、価値の源泉は「アルゴリズム」から「データ」へ移行が進むと考えています。なかでも、一次データの収集・蓄積、リアルタイムのフィードバックループ、非構造データの整備・構造化といった基盤づくりは、AIの社会実装を支える”インフラ”そのものです。

これまでもこうした領域に注目してきましたが、AIの本格的な普及を契機に、データ活用のマーケットはここから本格的に拡大していくと見ています。その中で、データセットやデータの構造化に強みを持ち、AI実装を支援する「データイネイブラー」の存在価値がますます高まると考えており、改めて注目しています。


Agentic Commerce & エッセンシャルワーカー向けAIソリューション —— AI Is Eating the World

「AI Is Eating the World」—— 昨今のAIの技術進化を見て、毎日のようにこの言葉を実感しています。ZVCの支援先でも、ソフトウェア開発やカスタマーサービスの領域に留まらず、AIを中心とした業務設計を行う会社が出てきています。この流れは不可逆であり、AIがますます事業運営に深く入り込んできます。

この先にはAIエージェントが経済活動を行う「Agentic Commerce」の世界が到来すると考えています。これまで分断されていた業務支援ツール(SaaS等)と企業間の購買活動がシームレスに繋がり、B2BのEC化を大きく進展させるスタートアップが登場することを期待しています。

また、AIは社内業務(ソフトウェア開発等)に広く浸透してきましたが、介護・物流・建設といった現場で、人手不足が特に深刻なエッセンシャルワーカーにこそAIの恩恵を受けるべきだと考えています。社会的リターンと経済的リターンが両立するこの領域だからこそ、私はエッセンシャルワーカーの人手不足を解消するAIソリューションに注目するとともに、次の大きな投資機会になると考えています。


宇宙 Deep Tech —— 巨大産業の“産声”を捉える絶好機


今年1月から投資を開始したZVC2号ファンドから、DeepTech領域への投資を始めました。その中でも、特に宇宙領域に注目しています。

インターネットが黎明期から巨大産業へと成長したように、宇宙産業も今まさに黎明のフェーズに入っています。

日本でも、宇宙戦略基金やSBIRなどの政府からの支援等も始まり、将来的に巨大になる宇宙産業が産声を上げたタイミングだと考えています。特に今後爆発的に増加すると予想される人工衛星関連の事業(ハードウェア、ソフトウェア、衛星データ活用等)、軌道上で生まれる新たなサービスに注目しています。宇宙領域でチャレンジしている、またはこれからチャレンジしたい起業家とはぜひともお話しさせていただきたいです。


コンテンツ×AI —— 次世代のコンテンツ市場を支える改革


コンテンツは、日本のスタートアップが世界の市場を狙える領域だと考えています。一方、現在、日本が強みを持つアニメやゲームの領域を中心に、人手不足やコスト高騰が深刻な影響を与えています。

例えば、アニメではアニメーターが不足しており、制作が決定してから完成するまで2~3年かかるとも言われています。またゲームでは、人件費の高騰などによるコスト増に加えて、求められるクオリティのハードルが上がり、制作中止になる事例も増えています。

そこで私は、コンテンツの制作方法をAIを用いて変革させるようなスタートアップに注目しています。制作方法が変化すれば、制作者が打席に立ち、”バットを振れる回数”が純増し、チャレンジングなコンテンツにも取り組みやすくなります。

従来の制作方法では、専門知識や技術が必要であり、アニメやゲームのような分野でUGC(ユーザー生成コンテンツ)を広げるのは容易ではありませんでした。しかし、AIによって制作手法が大きく変われば、ユーザー自身が作品を制作・発信しやすくなり、UGCが発展する新たな可能性が開けてくると考えています。

このようなコンテンツとAIを組み合わせた事業に取り組む起業家の方と、ぜひお話しさせていただきたいです。


リアルビジネス×AI/ロボティクス/ロールアップ—— リアルビジネスと効率化にみる勝ち筋


“DX”という言葉が誕生してから約20年が経過し、ホリゾンタルな領域やバーティカルに市場が大きい領域では、すでに有力なプレイヤーがポジションを築いています。そのため、ITサービスのみで獲得できる市場はニッチ化してきており、これからのスタートアップは、今までとは異なるアプローチが求められている状況です。

そのアプローチの一手段として、ITサービスのみを提供するのではなく、ITを用いて効率化されたリアルビジネスもセットで運営するようなビジネスに勝機があると考えています。

効率化においては、AIの活用はもちろん、ロボティクスなども大きな競争優位性になり得るでしょう。また、リアルビジネスの成長を加速させるという意味で、M&A(ロールアップ)も手段として取り入れていくことが考えられます。

私自身、前職で、後継者のいない動物病院を買収してグループ化し、オペレーションを効率化していくというロールアップの投資案件に携わっていたこともあり、この領域に取り組む起業家の方とぜひお話しさせていただきたいです。