対談レポート「Retty代表 武田さんに聞く!スタートアップの成長と事業連携」
今日は、オンラインイベント「PayPay Accelerator Program LIVE ~スタートアップの成長と事業連携~」のイベントレポートをします。
2020年10月に東証マザーズに上場したRetty代表の武田さんに、創業期のエピソードやヤフーとの提携の背景などを、YJキャピタル代表の堀との対談の中で語っていただきました。
また、PayPay Accelerator Programのエントリー期限は12月13日(日)となります。PayPayミニアプリのリリースにご興味をお持ちで、まだエントリーいただいていない方は、公式ホームページの「APPLY NOW」ボタンよりお早めにエントリーください!
https://accelerator.paypay.ne.jp/
Rettyの直近の状況に関して
堀:10月30日に上場となりましたが、社内の雰囲気はいかがですか?
武田:上場時にセレモニーを行ったのですが、非常に良かったです。コロナで出社できず、組織の一体感を出しづらい中でしたが、しっかりと感染対策をした上で、みんなで集まってたたえあう、というのは非常に良い機会でした。
堀:12月になり、忘年会シーズンに入りましたが、いまのコロナの状況は、やはり気になりますか?
武田:忘年会シーズンにはなりましたが、コロナの感染拡大もあり、気になっています。ただ、飲食業界における業態により影響の差が激しいです。居酒屋チェーンなどはコロナで厳しい一方、住宅街や地方の個店などは客足が戻りつつあります。Rettyとしても、こうした業態には注力していきたいと考えています。
また、(居酒屋チェーンなどが中心の)宴会などはサービス設計の中心にしていないので、時勢的にはどちらかというとポジティブと言えるかもしれません。
堀:コロナで外出自粛期間となった5月には、経営陣が集まりどのようにサバイブするか話してらっしゃったと思います。直近でも、こうした話し合いは行っているのですか?
武田:外出自粛期間となった5月は、この先どのような状況になるか見込みが立たちませんでしたが、いまは将来的な見込みがある程度立ってきているので、通常通り、四半期ごとにKPIを立てて事業を進めています。
堀:モバイルオーダー(Retty Order)も含めて、新規で立ち上げている事業などありますか?
※参考:Retty Orderとは
武田:モバイルオーダーは店舗でテストをしている段階です。店舗で導入すると、また違った課題が出てくると思うので、検証を進めています。
それ以外では、4-5月でテイクアウトのプランを作ったり、高級店向けには基本無料の、従量課金型のモデルを提供するサービスを開始し、順調に立ち上がってきています。
堀:直近では特に、顧客目線の新規サービスが増えている印象があります。
武田:顧客をより細分化してセグメント化し、ニーズに合ったサービス展開をする動きは強まったと思います。
堀:1万店弱の加盟店がある中で、セグメント化して顧客の声を聴いていくのは相当大変ですね。
事業連携について
堀:今日はスタートアップと企業連携というのがテーマになっています。YJCとしてもRettyへのご出資は過去最大の出資額でした。経緯もヤフー本体のカンパニーから業務提携の話が先に進み、そこからYJCでの出資の話が進んだという珍しいケースです。今日は、今までの流れも振り返りつつ、ディスカッションしていければと思います。
まず、YJCからの出資のきっかけなどをお伺いできますか?
武田:一番最初は、2012年に、ヤフーとデータ連携を行いました。それから諸々あり、連係解除ということになったのですが、2017年にヤフーのメディアカンパニー長(当時)の宮澤さんから直接連絡があり、再度データ連携の話が進み、ヤフーとの戦略的パートナーシップやYJキャピタルからの出資の話が進んでいきました。
宮澤さんとは実は、シリウステクノロジーズ時代から何度かお会いしたことがあり、一番最初に入社したネットエイジという会社の社名がngiに変わり、当時買収したフラクタリストに出向することになりました。私もその際には、シリウス社のSEOなどを売ったりしていて、宮澤さんとは個人的な関わりがありました。
堀:ありがとうございます。個人的なつながりもお持ちだったのですね。経験者の武田さんから、企業連携をしたいスタートアップへの、事業連携に関するアドバイスはありますか?
武田:アドバイスとしては、提携のイメージが明確な状態でなければ、仮に提携を行ってもあまり意味がないと思っています。プレスリリースを打つためだけの中身のない提携ではなく、自社の戦略やKPIに結びついている骨太な提携は、事業にもしっかり活きてきます。その形を模索しながら、提携を実現させていくのが重要だと思います。
堀:なるほど。データ連携やKPI関連で、提携において譲れない条件があったのですね。
武田:はい。データ連携は提供するものとしてよいのですが、その代わりに、ヤフーのトラフィックをもらう、というトレードオフな条件が望ましいと考えていました。
堀:KPIを絶対に達成したいという条件にこだわると、ディールが成立しないリスクもあると思います。大企業との連携はRettyとしては初だったのですか?
武田:LINEとも大きな提携がありました。LINEグルメ予約というサービス立ち上げの際に、Rettyのコンテンツ利用の依頼がありました。その時も、LINEにはトラフィック獲得を条件として交渉を行いました。
ただ、こうした交渉はギリギリなラインで行うので、難易度が高いです。交渉を行う際には、自社のアセットがしっかりあるのであれば、そこはしっかり主張するべきです。
自社の事業を伸ばすためにどうするべきかをしっかり考えて交渉するのが大事です。
堀:当時、武田さんがヤフーと交渉をしているときは、「ギリギリのラインを攻めながら、粘り強い交渉をするな」と思っていました。上場まで持って行ける方は、やっぱり交渉力も強いですね。
武田:譲れないラインを決めるというのは難しいですよね。ここまでならディールブレイクしても良い、というラインを決めて、交渉するのは大事だと思います。
堀:交渉のTipsみたいなもので、心がけてらっしゃることがあれば教えてください。
武田:相手の状況を正しく理解する、というのが重要だと思います。相手が欲しいものを見誤っては上手くいきませんし、相手が交渉で本気になっていないといった温度感も含めて、正しく相手の状況をあらゆるルートから理解する必要があります。
また、自社に魅力(=事業の強み)のある状態をちゃんと作っておくのは、前提条件としてもちろん大事です。
堀:B to Cサービスにおいては、ユーザー数やデータベースのボリューム、トラフィックなど様々な交渉材料となる自社の強みがあると思います。そうした自社の強みが、他社から「連携したい!」と魅力的に感じさせるレベルはどれくらいなものだと思いますか?
武田:ある程度、交渉に至るまでのルートは大事だと思います。あと、大企業側へ提携するメリットを提示することは重要だと思います。例えば、事業会社やCVCから出資を受けていれば、事業が成長すること自体がメリットになりますし、他にはデータを提供すること、などが考えられます。逆に、トラフィックを提供するのはスタートアップの戦い方として難易度が高いです。
あとは、技術力であったり何かしら光るものを持っているのが非常に重要です。
それを、事業会社側のキーマンと会話するのが重要です。
堀:以前からヤフーのキーマンである宮澤と意見交換や食事などは行っていたのですか?
武田:いえ、全くないですね。
堀:交渉が始まってからはお食事など行ったりされたのですか?
武田:はい。何回か行かせていただきました。
堀:会食は大事だと思いますか?
武田:はい、大事だと思います。事業提携だけでなく、資本提携も含めた話だったので同じ船に乗る、という意味ではより重要だったと思います。
Q&A
【質問】なぜ2018年の当時の段階で資本業務提携できたと思いますか?どういう点が評価されたと考えていますか?堀さん、武田さん両名に伺いたいです。
堀:ヤフーの強みを補強し、弱みを補完するのがYJキャピタルの役割です。飲食予約、人材、中古車、結婚、不動産といったジャンルは競合が強い領域なので、積極的に出資したいと考えています。なので、Rettyは以前から注目しているサービスでした。
そして、2018年のタイミングで出資が叶いました。
武田:ウェブの領域ではGoogleがやはり全世界的に強いですが、日本ではヤフーも検索マーケットで存在感を持っています。
他社もグルメ関連のコンテンツは集めていますが、私たちはGoogleなどのテックジャイアントよりも自社のコンテンツ力を高めることで競合優位を築いていきたいと考えています。大きな送客力やしっかりとした導線を持つパートナーになり得る存在は国内でも少ないため、意味のあるトラフィック獲得できるパートナーとしてヤフーが良いと思いました。
【質問】仮にヤフーと提携していなかったら、このタイミングでどんな企業と提携したいですか?
武田:難しい質問ですね。私たちのビジネスの状況は、飲食店にサービス提供し、加盟店を増やしていくというモデルなので、トラフィックか営業力を持つ企業との提携が望ましいと思います。
【質問】お二人がいま、注目している市場や領域はありますか?
堀:特化型のECやメディア、SNSは今年に入ってから特に注目しています。インターネットの過去20年の歴史を振り返ると、ネットサービスは集中と分散を続けています。例えばECでは、既存プラットフォーマーが飽和状態を迎えたときに、ZOZOのような特化型サービスが立ち上がった、など歴史は繰り返しています。
あともう一つ挙げるならば、投げ銭を中心とした個人の情報発信は注目しています。既存の情報発信サービスの使いづらさといった課題を解決する配信サービスや、ライブコマースの領域は伸びていくと考えています。
武田:ライブコマースは、マスまで普及して規模が広がっていくと面白そうだと思いますね。また、DXのようなトレンドには注目しています。飲食店でも、モバイルオーダーのような飲食店の業務を効率化するシステムや人件費などの固定費削減の領域に大きな変化が起こっていると思っています。
【質問】ミニアプリ市場はどのように伸びていくとお考えですか?PayPayミニアプリにおいて盛り上がる領域など予想がありましたらお教えいただきたいです
武田:中国に何度か行った際に、ミニアプリも触ってみて感じたことは、日常的というより、たまに使うサービスの方が便利だと思いました。ログインが簡易化されて、たまに使うサービスでも使いやすいユーティリティが提供できていると良いですね。適用できる領域は無限にあると思うので、こうした切り口で考えると良いと思いました。
【質問】赤字を掘っている段階で、どうやって投資家を納得させましたか?
武田:投資家を納得させるには、最初の市場選定が最も重要だと思います。市場がある程度あれば、赤字を掘っても最終的に収益が立つと考えられると思いますが、市場がないと赤字をいくら掘っても回収できないリスクが大きいです。市場選定は必ず外せない要素だと思います。
堀:最後発でも投資家から出資を受けた背景には、圧倒的な右肩上がりのグラフ(実績)を作った、というのも重要な要素な気がしましたが、いかがですか?
武田:ユーザー数の実績も重要な要素だったと思います。
堀:当時、資金調達していたころはどれくらいの成長率だったのですか?
武田:毎年、500~1,000万人ずつ、ユーザーが増えていっていました。
堀:すごい成長率ですね。まさに圧倒的です。
【質問】上場前後で、チーム作りで意識することは変わりましたか?変わったとしたら、どんな点が変わりましたか?
武田:上場時には盛り上がりを作ることもでき、多くの方に知っていただけたと思っています。上場前数年間は、売上成長率を全社で同じ目線感で持てることを、マネジメントやチーム作りの面で意識していました。例えば、売上成長率が落ちてきたチームがあれば、売上成長率が高い方向にシフトしてもらう、ということもしていました。ビジネスの型ができると、あとは短期間でどこまで成長できるかが重要なので、上場後も、より意識しているポイントになっています。
【質問】ユーザー数がより増えてきた今だからこそ、サービス開発で意識していることはありますか?
武田:毎年、500-1,000万人もユーザーが増えていると、組織がおかしくなる時があります。1カ月で100万人ユーザーが増えても誰も何も喜ばない、といったことも起こります。もちろん、数字は重要なのですが、様々なユーザーに使っていただけるようになってきた中で、コアユーザーは誰なのか、という目線合わせはユーザーが増えてきた今だからこそ、常に意識するようにしています。
【質問】Rettyを始めるとき、すでに先行していた飲食サービスにビジネスモデルを真似される、という不安はありませんでしたか?
武田:実名の個人の口コミサービスが真似される不安はありませんでした。Rettyを始めたときは、スマートフォンの普及と、Facebookのような実名登録サービス普及の二つのパラダイムシフトが同時に押し寄せていました。サービス立ち上げ当初はスマートフォンから簡単に口コミ投稿できる機能を、実名投稿とあわせて2-3年かけて開発していきました。匿名と実名のサービスでは、ユーザーの行動にも違いが出てくるので、実名制のサービスとしてスクラッチからサービスをデザインしていたので、そこには自信がありました。
堀:ユーザー数が一気に増えてからは、真似されても追いつかれないポジションになっていたのですよね。
武田:はい、ある程度の参入障壁は作ることができたと思っています。
【質問】ヤフーに求めたRettyへのメリットは、提携を通じて希望通りに得られましたか?
武田:メリットは当然ありましたし、今後もメリットには期待しています。トラフィックのメリットだけでなく、ヤフーと提携しているという将来への安心感から、加盟店の受注につながるといった副次的な効果もありました。今後も、事業成長につなげていきたいと思います。
【質問】大企業との提携は、良い面があれば悪い面やリスクもあると思います。これから大企業との連携を目指す皆さんに、メッセージをお願いできればと思います
武田:提携するとサービスの伸びを求めるのもあると思いますが、一番大事なのは自社の魅力(=強み)を持ち続けることです。そこを意識できなくなると、まずいと思います。仮に提携先の魅力がなくなったら、提携が終わるというのもあるべきだと思います。自社の魅力を磨き続けられれば、提携にも深みが出ると思いますし、より良い関係構築ができます。
堀:提携はうまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。自力でサービスを伸ばすというスタンスが重要ということですね。
武田:はい。ゼロから作り直すくらいの気概も持って、サービス開発に取り組み続けるのがスタートアップには大事です。
「PayPay Accelerator Program」について
「PayPay Accelerator Program」は、PayPay、YJキャピタル、East Venturesの3社が協同で提供するプログラムで、参加するスタートアップ企業に対し、PayPayによる技術的支援とYJキャピタルおよびEast Venturesによるビジネス面におけるメンタリングサポートを行います。参加対象となるスタートアップ企業は、業種は問わず、アーリーステージ(※1)の企業が対象で、本プログラムで完成したプロダクトを全国で3,300万人以上(※2)が利用する「PayPay」のミニアプリとして提供(※3)できます。
PayPayは、10月26日より開発者向けツール「PayPay for Developers」上でミニアプリに関するオープンAPIの提供を開始しました。オープンAPIを公開するだけでなく、「PayPay Accelerator Program」を提供することで、スタートアップ企業の先進的な技術、斬新なアイディアとのシナジーで、ユーザーの生活をもっと豊かで便利にする「スーパーアプリ」化を促進するようなミニアプリの提供、拡充を目指します。
<ミニアプリに関するオープンAPI提供開始について>
https://about.paypay.ne.jp/pr/20201026/01/
募集内容およびスケジュール、参加企業への特典などの詳細はプログラム公式HPをご覧ください。
<プログラムHP>
http://accelerator.paypay.ne.jp/
※1 自社提供のプロダクトがすでにある、シリーズA以前のスタートアップ企業を主な対象としています
※2 アカウント登録を行ったユーザーの数です。(2020年10月19日時点)
※3 企業が自社サービスをミニアプリとして提供を開始するためには、「PayPay for Developers」で加盟店登録を行い、所定の審査に通過した場合のみ可能です。また、本プログラムにおいては、最終成果報告会において承認されたサービスにつき、ミニアプリとして提供を開始する予定です。