2026年 注目の投資領域(米国チーム)

2025年は、Z Venture Capital(ZVC)にとって、投資規模、地域展開、注力領域のすべてにおいて大きな進化を遂げた一年でした。日本、韓国、米国を拠点に、51社のスタートアップへの投資、300億円規模のZVC2号ファンドの始動、そしてサンフランシスコ拠点の開設など、ZVCはグローバルにスタートアップと伴走する体制をさらに強化しました。

そして、2026年。ZVCは、この一年をどう見据えているのか。本コラムでは、各拠点で投資を担うメンバーが、2026年に注目しているテーマや領域について語ります。最終回は米国です。


2026年、私たちUSチームは、AIファーストの投資仮説をさらに強化していきます。その根底にあるのは、ひとつの明確な考えです。AIは、モバイルシフトに匹敵するほど大きな消費者行動の変化を引き起こしている——しかも、はるかに速いスピードで。AIによって生産性が飛躍的に向上するにつれ、その影響は業務ツールにとどまらず、日常のライフスタイルや意思決定の領域へと広がっていきます。そこから、新たなカテゴリー、新たな支出行動、そして新しいビジネスモデルが次々と生まれていくと考えています。

以下は、私たちが起業家への確信と、初期の市場シグナルを特に重視して注目している4つの領域を紹介します。



■ データ・インフラ


高品質なデータパイプラインこそが最大の競争優位

フロンティアモデルがより汎用的な能力へと進化する中で、差別化の源泉は「どのモデルを使うか」ではなく、データの質、ガバナンス、そして再現性のあるデータパイプラインへと移りつつあります。私たちは、高シグナルなデータを継続的に取得・管理・ラベリング・評価・改善するためのインフラを構築するスタートアップに大きな機会を見ています。これには、ファインチューニング、推論最適化、評価、エージェント学習ワークフローを支えるツール群も含まれます。防御力(Defensibility)は、独自のデータループと、それをクリーンかつコンプライアンスに準拠した形で回し続けるシステムから生まれると考えています。


■ ヘルスケア/ロンジェビティ


「消費者化」するヘルスケア

AIは創薬、パーソナライズ、コーチングを加速させていますが、最も大きな変化は需要側に起きると見ています。健康寿命の延伸や生活の質向上に対する意識が高まることで、消費者の支払い意欲は確実に上昇していくでしょう。その結果、継続的な予防、個別化された診断、AIによる行動支援、従来の医療というより「会員制サービス」に近いロンジェビティプログラムなど、新しい消費者向けサービスが生まれる余地があります。ウェアラブルや家庭用診断データがより豊富かつ身近になる中で、信頼を獲得し、測定可能な成果を出し、日常生活に自然に溶け込むプロダクトこそが勝者になると考えています。


■ 新しい経済モデル


ソロファウンダーと新しい稼ぎ方のインフラ

AIは、起業や事業拡大にかかるコストとハードルを劇的に下げています。私たちは、次の成長の波は一人会社(ソロファウンダー)や、より広義のクリエイターエコノミーから生まれると見ています。そこでは、個人がAIを「チーム」として活用し、小さな企業のように事業を運営していきます。 「一つの仕事を一生続ける」というモデルは揺らぎつつあり、若い世代を中心に、より柔軟で多様な収入の持ち方が模索されています。私たちが注目しているのは、こうした新しい稼ぎ方を支えるプラットフォームです。具体的には、クリエイターやマイクロ起業家のためのAIネイティブなツール、個人事業者の業務を自動化するワークフロー、そして、決済、与信、コンプライアンス、福利厚生といった、これらのモデルを持続可能なものにする金融インフラです。


■ メディア/エンターテインメント


Human × AI の創造性

AIによって、編集、ローカライズ、VFX、パーソナライズされたストーリーテリングなど、コンテンツ制作のハードルは劇的に下がりました。一方で、オリジナルIP、センス、作り手の想いが感じられる物語性は、依然として人間ならではの強みです。勝者となるのは、AIの力を活かしながら、明確なクリエイティブディレクション、ブランド、流通を兼ね備えた存在だと考えます。私たちは特に、コミュニティ起点で新しいAIメディア体験を生み出すプラットフォームや、クリエイターと持続可能なエコシステムを支えるマネタイズ・権利管理インフラに注目しています。

これらの領域で、AIによって消費者行動を本質的に変え、持続的な競争優位を築こうとしている方がいれば、ぜひお話ししたいです。ZVCは、そうした挑戦に本気で向き合う創業者との出会いを歓迎しています。

実行と責任を担うAIが産業を変える


私の投資スタンスは、知能と自動化が現実世界の仕事のあり方をどのように変えていくのかを、長期的な視点で捉えることに基づいています。いま私たちは、AIが単なる支援ツールの役割を超え、業務そのものに責任を持ち始めるフェーズに入りつつあると考えています。こうした変化の中で重要になるのは、技術そのものの汎用性ではなく、現場でどう使われるかです。持続的に成長する企業は、汎用的なテクノロジーを提供するのではなく、特定の産業の業務や意思決定の流れに深く入り込み、その一部として機能する形で価値を生み出していくはずです。

私の投資の中核にあるのは、特定領域に特化した「エージェント型AI」です。明確に定義された業務フロー、規制環境、意思決定の文脈の中で機能するAIエージェントを構築している企業に強い関心を持っています。こうしたシステムは、もはや人を補助する存在にとどまらず、業務を実行し、例外対応を行い、成果に対して責任を持つ段階へと進化しています。私が評価するのは、狭いながらも切実な課題から出発し、既存システムに自然に組み込まれ、定量的に測定可能な価値を提供できているチームです。垂直特化とワークフローの“所有”こそが、初期のトラクションを長期的な競争優位へと複利的に育てる条件だと考えています。

また、ロボティクスやフィジカルAIにも多くの時間を割きつつ、より注目しているのは資本集約的な最終プロダクトを支えるインフラ層です。基盤モデルやヒューマノイドロボットが脚光を浴びがちですが、私にとってより魅力的なのは、フィジカルAIを大規模に実装可能にするレイヤーです。具体的には、知覚、制御、シミュレーション、開発ツール、運用インフラなど、現実世界でのコストや複雑性を下げる技術群です。産業オートメーション、物流、製造、エネルギーといった分野において、実験ではなく「必要性」によって導入が進む、明確な技術的強みを持つ企業に、関心が向きます。

さらに、AI社会を支える「縁の下の力持ち」となる技術分野にも注目しています。AIの活用が進むほど、計算資源やエネルギー、データセンター運用の課題は無視できなくなります。こうした制約を解消し、AIエコシステム全体の成長と安定を支える基盤技術に取り組む企業に惹かれます。

これらすべてに共通して私が注目しているのは、技術の強み、市場の仕組み、そして現実の制約がきちんと組み合っている企業です。アイデアや技術だけでなく、どう使われ、どう広がり、長く続いていくのかが明確に描けていることを重視しています。自分たちが向き合う領域で「何が難しく、どこに突破口があるのか」を理解したうえで、産業の変化とともに価値を広げ続ける仕組みをつくろうとする起業家に、私は強く惹かれます。


2026年は、新しい世代のコンシューマー向けAIプロダクトが本格的に立ち上がる転換点の年になると見ています。私が注目しているのは、ユーザー行動の変化が急速に進み、技術的成熟が進む一方で、まだ明確な勝者が定まっていない3つの領域です。それが、AI搭載のバーチャルコンパニオン、パーソナルAIエージェント、そしてインフラ主導のゲーミングです。


AI搭載バーチャルコンパニオン


AIによる「友だち」やデジタルな話し相手は、今まさに広がり始めている分野です。こうした存在は、個人に合わせた会話やロールプレイ、心の支えとなるやり取りを通じて人と向き合うもので、必要なときにそばにいる友人やメンター、あるいはキャラクターのような役割を果たします。とくにZ世代を中心に利用が急速に広がっており、利用頻度や滞在時間といった指標は、すでに主要なソーシャルサービスと肩を並べる水準に達しています。

収益化はまだ始まったばかりですが、基本利用は無料としつつ、追加機能を月額で提供する仕組みや、デジタルアイテムの販売には、継続的なビジネスにつながる手応えが見え始めています。さらに重要なのは、まだこれらの「決定版」と言える存在がないことです。今も途切れることなく、数多くのAIコンパニオンのサービスが登場し、それぞれが異なる個性や使い道、感情的な関わり方を模索しています。人の気持ちに寄り添い、個人に合わせて応えるソフトウェアへの需要がなくなることはないでしょう。

私が特に注目しているのは、使う人とともに時間をかけて成長し、映像や音声といった表現も取り込みながら、これまでにないデジタル上の関係性を築こうとするチームです。その可能性は、単なる娯楽にとどまりません。信頼や自己認識、感情的なつながりを土台とした、まったく新しいソフトウェア分野が生まれつつあると考えています。


パーソナルAIエージェント


「検索からチャットへ」という流れは、すでに一巡した変化だと感じています。今、私が強い関心を寄せているのは、「話すこと」から「実際に動かすこと」への移行です。個人向けのAIは、旅行の手配や予定の管理、買い物、さまざまなサービスの調整といった日々の作業を、着実にこなせるようになってきました。いくつものアプリを切り替える代わりに、人は「何をしたいか」をAIに伝え、作業の流れそのものを任せ始めています。

そこで注目しているのは、考えることと実行することを一体で担うAIの仕組みです。とくに、医療や健康管理、金融、日々の仕事の効率化といった分野に特化し、生活の中に自然に溶け込む形で使われる存在には、大きな可能性を感じています。また、単に便利なだけでなく、個性や人の気持ちをくみ取る力を備えた、表情や語り口に特徴のあるAIへの関心も高まっています。

ZVCからVividentとTelem61への投資は、こうした考えをそれぞれの形で体現しています。Vividentは、使う人とともに成長し、少しずつ変化していく自律的なAIキャラクターをつくっています。一方、Telem61のTrophi.AIは、ゲームのプレイデータをもとに、実践的な助言を返すゲーム内のAIコーチです。いずれも、AIが単なる目新しい技術ではなく、人の生活に自然に入り込む存在になり得ることを示しています。


AIネイティブ時代のゲーミング・インフラ


ゲームは、消費者向けテクノロジーの中でも特に息が長く、創造性に富んだ分野のひとつであり、その進化はいまも加速しています。AIの活用によって、ゲームの作り方や届け方、そして遊ぶ体験そのものが変わり始めています。開発現場では、素材づくりの高速化や動作確認の自動化、遊び方を一人ひとりに合わせる仕組みなどを支える道具が、積極的に取り入れられています。同時に、利用者自身がコンテンツを生み出す動きが広がり、ゲームにおける創作性と主体性は大きく広がっています。

こうした変化は、基盤となる技術や仕組みを提供する企業にとって、明確な追い風となっています。私が注目しているのは、複数の端末や環境にまたがって使える開発用の道具、AIを前提とした新しい遊び方を裏側で支える仕組み、そして少人数の開発チームでも素早く作品を世に出せる環境を整えるサービスです。これには、公開や運営を支援する仕組み、収益化のための土台、開発の流れに深く組み込まれるAI関連の中間技術などが含まれます。

投資先であるSound Gamesは、その代表的な例です。同社は、複数の環境へのゲーム移植や最適化を支援し、複数端末対応の開発における大きな詰まりどころを解消しています。運営型のゲームが進化し、作品を生み出す流れが広がっていく中で、こうした道具の価値は今後さらに高まっていくでしょう。私は、そうしたゲームを可能にする「土台」となる仕組みや道具への投資を続けています。


まとめると、感情知性を備えたコンパニオン、エージェント型インターフェース、そしてAIネイティブなゲーミング・インフラ。この3領域こそが、私が2026年における本質的な機会を見出している場所です。いずれも、ユーザー行動の深い変化と、新たな技術的レバレッジが交差するポイントにあります。次の時代を形づくるプロダクトを生み出すチームと、ともに歩めることを楽しみにしています。


AIネイティブ時代における「希少性」としてのオーセンティシティ


AIがコンテンツを生み出すコストを劇的に下げる中で、私の投資の焦点は、むしろ希少になりつつあるものに向かっています。それが「オーセンティシティ(真正性)」です。創作活動、ソーシャルな関係性、そしてコミュニティの形成において、意図、作者性、動機におけるオーセンティシティは、AIネイティブな時代において、最も価値ある差別化要因のひとつになると私は考えています。

私が惹かれるのは、すべてを自動で生み出す仕組みではありません。人の考えや判断を大切にし、それを広げてくれるAIの道具や場をつくろうとする起業家たちです。AIは人の代わりになる存在ではなく、創作を支える土台であるべきだと思っています。発想を助け、技術的な完成度を高め、複雑な作業の負担を減らしながらも、最終的に何を表現するのかを決めるのは人であり、その前提は欠かせません。表現の入口が広がることは歓迎すべきですが、そこで生まれる意味や意図までが薄れてしまってはならないのです。


クリエイター中心のAIツール(音楽・アート・映像・アニメ)


私は「作者」ではなく「創作の伴走者」として機能する、クリエイター向けAIツールへの投資を考えています。アイデアの整理を助け、試行錯誤のスピードを高め、優れたUXや技術的支援を通じてクオリティの高いアウトプットを可能にするプラットフォームです。特に、著作権、同意、所有権を強く尊重し、クリエイター自身が自らの作品がどのように使われるのかを理解し、表現そのものに対する主体性を保てる設計になっている企業に惹かれます。


本物の創作を、スケールさせる


私は、創作がもっと多くの人に開かれるべきだと強く信じています。その一方で、誰もが簡単に作れるようになることと、プロとして創作を続けていくことが成り立つかどうかの間には、難しいバランスがあるとも感じています。だからこそ私が惹かれるのは、ただ手軽にアウトプットを量産したり、流れてくるコンテンツを消費させたりするプロダクトではありません。学びながら試行錯誤でき、自分なりの意図や表現を深めていけるプラットフォームです。AI生成コンテンツがあふれる時代だからこそ、時間をかけた工夫や技術、考え抜かれた創作がきちんと評価されるツールが、より大きな価値を持つようになると考えています。


親密なソーシャルプロダクトとコミュニティ主導の体験

私はツールに限らず、人と人のあいだに「本物のつながり」や共通の文脈が生まれるソーシャルプロダクトにも強い関心を持っています。多くの人に一斉に届ける大規模なネットワークよりも、時間をかけて信頼が育ち、関係性が深まっていく小さなコミュニティに魅力を感じます。こうしたプロダクトは、創作やファンダム、学び、趣味といった共通の関心ごとから自然に生まれることが多く、数字としてのエンゲージメントよりも、人にとって意味のあるやり取りを大切にしています。


コマース、ファッション、そして持続可能な創作システム

私は、アイデンティティや好み、そしてサステナビリティが重なり合う分野として、ファッションやセカンドハンドコマースにも注目しています。これらの市場では、AIが商品の発見や分類、価格設定、物流を容易にすることで、消費者にとって使いやすく心地よい体験を生み出す一方、事業者側のオペレーションも効率化しています。また、ここで語られるサステナビリティは単なる付加価値ではなく、大量生産よりも「長く使えるもの」や本物らしさを大切にする人が増えている今、購買行動そのものを動かす中心的な理由になりつつあります。


2026年に向けた活動とアプローチ


2026年は、クリエイターや起業家、そして小さなコミュニティとの関わりをこれまで以上に深め、現場での創作がどのように変わりつつあるのかを丁寧に見ていきたいと考えています。アーティストや独立して活動する作り手の方たちと近い距離で向き合い、日々の制作の流れや悩み、そしてAIとどのように付き合っているのかを、直接学びたいと思っています。

同時に、強い信念と専門分野への深い理解を持ち、見過ごされがちだったり、正当に評価されにくかった課題に取り組む、創業期の起業家とも継続して時間を過ごしていくつもりです。その際に重視したいのは、事業が大きくなっていく過程でも、作り手としての姿勢や「らしさ」を失わず、無理のない形で成長できるかどうかです。

最終的に私が目指しているのは、技術が誠実な創作を後押しし、人と人との本当のつながりを育て、長い時間をかけて意味のある文化を支え続ける——そんなAI時代の新しい土壌に投資することでありたいと願っています。