Amazon、Shopify急成長の裏で「返品スタートアップ」が伸びる意外な理由

Amazon、Shopify急成長の裏で「返品スタートアップ」が伸びる意外な理由

新型コロナウィルスにより、外出自粛を余儀なくされた2020年。EC各社の売上は大きく増加しています。Amazonの2020年度売上は前年比38%増、ヤフーショッピングは16.5%増、楽天は15.2%増、その中でもShopifyは86%増という驚異的な数字を叩き出しています。

出典:shopify決算資料
このようにECの成長に伴い、EC事業者を支援するECイネーブラーも大きく成長しています。ECイネーブラーはECの各プロセスにおける業務支援機能を提供する事業者です。

昨年は「BNPL(Buy Now Pay late:後払い決済システム)」の「Affirm(アファーム)」が上場、顧客に対するメールマーケティングを支援する「Klaviyo(クラヴィヨ)」が時価総額1兆円を突破するなど多くの企業が急成長を実現しています。

そんなECイネーブラーの中でも注目を浴びるのがEC事業者の「返品」に関する業務を支援する企業です。
2021年4月にはAffirmによる「Returnly(リターンリー)」の買収、5月にはPayPalによる「Happy Returns(ハッピーリターンズ)」の買収が発表され、話題となりました。

Returnly、Happy Returns共にEC事業者の返品業務を効率化するソリューションを提供しています。

ReturnlyはShopifyのアプリケーションとしてECサイトで購入した商品を返品する際の返品依頼から配送伝票の発行までを実装できるシステムに加え、返品時に類似商品のレコメンドや即日返金されるストアクレジット(購入店舗で使用できるポイント)での返金など返品体験を向上するサービスを提供しています。

Happy Returnsは様々な店舗と提携、これまで郵送が必要だった返品を提携店舗へ持参すれば引き取ってもらうことができるサービスを提供しています。


「返品」が注目される背景とは?

返品領域のスタートアップが注目される背景には、米国の返品率の高さがあります。

米国の返品率は18.1%と日本の返品率3〜5%に比べ高く、返品総額は約10.6兆円に登っています。メーカーや小売事業者にとって、返品は配送費、顧客とのコミュニケーションや返金処理などに掛かる人件費、返品商品の保管費用の負担に加え、返品された商品の約25%は廃棄処分とされており、大きな損失を生んでいます。

このような返品によるメーカーやEC事業者の負荷を軽減する手段として返品領域のスタートアップが注目を浴びています。

さらに注目を浴びる大きな要因として、顧客の返品体験の向上が売上増加に寄与するという点があります。

フェデックスの調査では、返送料無料の返品を可能として販売することにより、ECサイトのCVRは平均1%向上するという結果が出ています。さらにReturnlyの調査ではストアクレジットでの返金や返品商品の類似商品のレコメンドにより再購入率は平均32%向上すると報告されています。

このように返品体験を向上することにより、初回購入率・返品時の再購入率を高め、売上増加に繋がることが注目を浴びる2つ目の要因となっています。

このため、多くの企業が返品体験の向上に取り組んでいます。

AmazonはAmazon プライムでの無料返品やAmazonワードローブにおける購入前試着プログラム、中国のEC大手JD.comは15日以内の返品・修理を無料として返品の際は自宅まで配送業者が集荷に訪れるサービスを提供しています。また、ShopifyはReturnly同様の返品管理業務アプリケーションのReturn Magicを買収しています。
ECプラットフォームだけでなく眼鏡のD2Cを展開する「Warby Parker(ワービー・パーカー)」や「Stich Fix(スティッチフィックス)」も購入前試着プログラムを提供しています。

オンライン業界だけでなく、ウォルマートはフェデックスとの提携により無料で返品の集荷を行うサービス、同じく小売チェーンのノードストロームは無条件で返品可能、ターゲットは返品期限を90日間から1年間へ延長するなど各社が返品体験の向上に取り組んでいます。

返品体験を向上するスタートアップの4分類

EC事業者からオフラインの小売事業者に至るまで多くの企業が返品体験の向上を図る中で、返品に関する業務を支援するスタートアップも多く生まれてきています。
返品領域のスタートアップは大きく4つに分類できます。

1つ目は返品業務の効率化であり、前述のReturnlyのようなECサイトにおける返品に関する業務を効率化するSaaSを提供しています。サイトにアプリを導入するだけで商品ページに返品可能の表示をしたり、返品依頼用のページを自動生成して、顧客とのコミュニケーションを削減しています。さらにストアクレジットや類似商品レコメンドにより再購入率を高めてくれるサービスとなっています。

2つ目は返品在庫管理の最適化であり、返品専用の倉庫を提供したり、倉庫での保管を自動化するなどのサービスを提供しています。

3つ目は再販の最適化であり、返品商品や売れ残り在庫を販売する二次流通マーケットプレイスです。

4つ目は返品在庫管理〜再販までの最適化であり、返品商品の受け取りから二次流通マーケットプレイスでの再販までを一気通貫で提供しています。
特に各領域スタートアップを並べると返品在庫管理〜再販までの最適化を行う米国企業「Optoro(オプトロ)」が最も累計調達額が多く、ネクストユニコーンと呼ばれています。

出典:Crunchbase

約270億円を調達する返品スタートアップOptoro

Optoroは2010年に創業された企業で、返品された商品を自社倉庫で受け取り、商品を検品、「クライアントサイトでの再販・二次流通市場での再販・リサイクル」のどれが最適かを識別、Amazonやebay等の各種ECサイトや自社ECサイトのうち最高値で販売できるチャネルを自動で選択〜出品してくれるソリューションを提供しています。
各種ECサイトの販売価格を追跡しているため、即時に最高値で売れるチャネルを選択できる点に特徴があります。

さらにOptoroのユニークな点は、そのビジネスモデルにあります。ビジネスモデルは、返品在庫管理の月額利用料に加え、再販の際に手数料として売上の15〜50%を徴収しています。そのため、導入企業が増えれば取り扱い商品数も増え、GMVも増加する循環が生まれています。
自社ECサイトも保有しているため、自社ECサイトでの販売により粗利率も向上できます。

Optoroは2000年台後半に在庫処分を目的とした複数の二次流通マーケットプレイスが成長する中で、最高値で販売できるチャネルを選定〜再販するソリューションとして誕生しました。

その後、Happy Returnsのような店舗受取ネットワークが誕生すると、自社で店舗ネットワークを構築、集荷を開始、Returnlyのような返品管理SaaS が生まれると、Returnlyと提携、返品管理〜再販までを提供できるサービスへ進化させてきました。

このようにOptoroは当時の課題であったどのチャネルで再販すれば良いかという点を解決することから事業を開始、返品の管理から再販まで対象領域を広げることで、優位性を持続して成長を続けています。

日本における返品スタートアップの可能性

では日本の返品市場はどうなっているのでしょうか?
日本の返品率は3〜5%と言われています。クーリングオフ制度が通信販売には適用されなかった背景から、ECサイトは返品不可が一般的商慣習となり、欧米に比べ低い水準となっています。一方でECにおける返品総額は3500億円以上あり、一定規模のマーケットが存在しています。
Optoro創業時のアメリカは、返品率は高いもののEC化率がまだ低く、返品在庫をどう捌くか?最高値で売るにはどうするか?が課題でしたが、現在の日本は返品率が低い一方でEC化率は高く、返品在庫をどう捌くかよりもECの売上を増加する手段として返品体験の向上に取り組む企業が増えることが推測されます。
この点を踏まえると、Returnlyのような返品業務の効率化と初回購入率・再購入率の向上を実現する返品管理SaaSを起点に返品管理〜再販までを一気通貫で提供する企業が生まれてくるのではないかと考えています。

国内でも返品管理SaaS「Recustomer」が生まれていますが、返品を売上に変える新たなスタートアップを検討されている方がいましたら、是非ディスカッションさせてください!