
Dwilarが挑む 国境を超えて AIで“信用ゼロ”の壁を壊す
by Shogo Takahashi
Z Venture Capital(以下、ZVC)が出資するDwilar, Inc.(以下、Dwilar)は、国境を越えて暮らす人たちが直面する「信用情報の壁」をAIで打ち破ろうとしています。資金調達に合わせ、Dwilarの代表取締役社長、中村 嘉孝さんと、本ラウンドを担当するZVCキャピタリスト、湯田 将紀が対談。今回の出資の背景や、LINEヤフーグループとのシナジー、そして採用へのメッセージを語りました。
外国人向け与信判定 AI SaaS を日米で展開。42ヶ国の与信情報機関・オープンバンキングシステムとの連携により、外国人の母国での与信情報を活用した審査を可能にし、外国人の移住先での生活基盤構築をサポート。AI Agent 機能を活用した、煩雑なプロセスの自動化が強み。
対談者プロフィール

Dwilar 代表取締役社長 中村 嘉孝さん
新卒でトヨタ自動車に入社。知能情報化企画調達室で部品調達を担当。その後、P&Gに転職。予算の予実管理やDXプロジェクト、新規拠点立ち上げなどを担当。UC BerkeleyでMBAを取得するために米国西海岸に渡り、外国人としての自身の経験から、越境与信を提供するDwilar, Inc.を創業。

Z Venture Capital Partner 湯田 将紀
早稲田大学社会科学部卒業後、ヤフー株式会社に入社。企画、マーケティング、財務業務等に6年半従事した後、2018年10月よりZ Venture Capital(旧YJキャピタル)に参画。Z Venture CapitalではFintech, SaaSを中心に投資業務に従事。過去には週刊金融財政事情「Fintech+(フィンテックプラス)」にてFintechスタートアップを紹介するコラムの連載を担当。
“外国人はクレジットカードすら作れない”──Dwilar誕生の背景
Q:まずは創業ストーリーから伺えますか?
中村:日本人として生まれ育ち、社会人経験を積んでからMBA取得を目指して渡米しました。ところが現地で暮らし始めると、衝撃でした。まず、クレジットカードが作れない。ローンも組めないし、アパートも貸してもらえない。
“昨日まで日本で普通に生活してたのに、いきなり信用ゼロ扱い”状態だったんです。
Q:いずれも暮らしに直結する制限ですよね。
中村:最初は、私の個人的な問題なのか、あるいは差別なのか?とも考えましたが、周りを見渡すとアメリカに来ている外国人はみな似たような状況でした。
Q:個人の属性以前に”仕組みの穴”があった?
中村:そうですね。日本に一時帰国した際に、日本に来ている外国人の方々も同様の課題を抱えていることに気づきました。
この問題を実体験として強く実感したので、この負担を解消する取り組みができればと思ったのが大きなきっかけです。
湯田:私が初めて中村さんとお会いしたのも、一時帰国していた時でしたよね。
中村:そうです。最初に湯田さんとお会いしたのは、私たちが国際融資のスタートアップとして事業検証を行っていた時期で、その面談をきっかけに、ZVCのシード投資プログラムから出資をいただきました。
そこから約1年後に一時帰国した際に事業を大きく転換する出来事がありました。
湯田さんが「外国人向け不動産エージェントを展開しているスタートアップがある」と紹介してくださり、伺ったところ、私たちが自社で作成し、社内利用していた与信判定ツールをSaaSで使わせてほしいと提案され、思いがけず初めての SaaS 契約がまとまりました。その後、同様の課題を抱える企業をリストアップして営業をかけたところ、1週間で3社と契約が決まり、「この分野には大きなマーケットニーズがあるんだ」と確信しました。
以降も与信判定ツールの SaaS 提供が続いたことから、当初想定していた自社融資事業から、ツール提供へと事業の重心をシフトさせる転換点になりました。
Q:アメリカで起業されて実際に感じる日本との違いはありますか?
中村:大きな違いの1つとしては、タイムラインですね。例えば、B2Bの営業の場合、日本の場合は、承認プロセスが長く、「とりあえず情報交換から」というステップが何ヶ月も続くことがあります。アメリカでは、大企業でもすぐにミーティングに繋いでもらえることが多く、ミーティング中に「イエス」の返事がすぐに出ることも多々あります。ただ、速断速決で断られることも多いので、それが良いかどうかは分かりませんが(笑)
Q:その他にもありますか?
中村:もう1つは、スタートアップへの関心が高いですね。MBAの卒業生コミュニティなどで「この分野に詳しい人を探している」とか「この事業を手伝ってくれる人はいませんか」と聞くと、すぐに10人、20人から連絡が来ます。
彼らのバックグラウンドを見ると、GoogleやAppleといったGAFAMの出身者もいて、彼ら自身も「いつかスタートアップで挑戦したい」と考えている人が多いように思います。スタートアップの活動や起業家に対して温かい雰囲気があり、様々なサポートが受けられます。そこは、アメリカに来て良かったと思う点ですね。
世界42か国対応、トランザクションデータで”信用”を推定
Q:現在、どのようなプロダクトを展開していますか?
中村:与信判定等審査のスクリーニングをするためのAIサービスプロダクトを作っています。具体的に言うと、42カ国と連携し、ワンクリックで与信情報が取得できて、面倒なアカウントアグリゲーションや与信判定のためのデータ読み込み・精査プロセスをAIエージェントの機能で自動処理し、希望の形でアウトプットを提供しています。
湯田:アメリカでは、事業に対してどのような反応が返ってきますか?
中村:類似として、*Nova Creditを挙げられることが多いです。でも向こうは、対応できる国が主に欧州かつ27か国で、データは複数APIを統合するモデルなんです。一方、Dwilarは銀行のトランザクションデータをもとにしていて、信用機関が国外データを出さない国でも推定でき、対応国も42か国となります。
Q:この業界から見ると、インパクトはどれほど大きいのでしょうか。
中村:与信情報のビジネスは欧州では一般的ですが、欧州エリアしか対応できないという制限があります。特にアジア圏や中東では、与信情報機関が国外にデータを提供していないことが多く、そこの構築には何年もかかります。
そこで私たちは「与信情報機関からデータの入手が難しければ、銀行口座のトランザクションを活用して与信判定できる」という方法を開発しました。これにより対応国を2倍に増やせたのは大きなブレイクスルーだと思っています。
Q:具体的にどういったところにサービスの導入が進んでいますか?
中村:サービスは不動産売買・賃貸エージェント、保証会社、金融機関、さらには携帯電話リース事業者などに導入されています。外国人の母国での与信情報を瞬時に把握できるようになったことで、審査プロセスが大幅に短縮され、審査通過率が向上し、長期前払い家賃や敷金の負担も軽減されています。特に審査プロセスについては、従来2~3ヶ月かかっていた作業が24時間以内で完了できるようになった事業会社もあり、業務効率の大幅な改善にもつながっています。
Q:市場でのリアクションはいかがですか?
中村:はい、現在は日本の不動産会社が外国人入居者の与信を判定する際にサービスをご利用いただくケースが中心です。
日本へ移住する外国人は、年間数十万人に上るとされています。さらに*² U.S. News & World Report の「Best Countries 2024」調査では、「将来住みたい国ランキング」でアジア圏唯一のTOP10入りと注目度も高く、国内外の不動産関連企業から多くのお引き合いをいただいています。
外国人が日本で住居を探す際には、(1)与信判定、(2)外国人対応に積極的な事業者が限られているという課題があります。対応可能な店舗を探して何件も回り、やっと手続きを進めても審査で断られ、再び一から探し直す――しかも言語の壁もある――というサイクルは、時間と忍耐力を要する大きな負担です。
そこで、現在は与信情報の自動化を提供していますが、将来的にはそのプロセスをさらに広げたいと考えています。不動産会社を探す段階から、複数社と並行してコミュニケーションを取りながら交渉したり、各不動産会社に合わせた与信情報を提供したりと、前後の工程も含めて、外国人が困りがちなプロセス全体を自動化できればと思っています。
「Founder-Market Fit」への期待 / LINEヤフーとの協業構想
Q:今回の資金調達で、様々な検討があったと思うのですが、ZVCに相談しようと思った背景もぜひ教えてもらえないですか。
中村:湯田さんに関しては、既存の投資家の中で、ご紹介だとか連絡先を知りたいとか、あとは何か推薦書を書いてもらうこととか、そうした様々な場面で、一番最初に顔が浮かぶ存在なんです。「あ、多分笑顔で受け入れてくれるだろうな」って。コミュニケーション上でとても助かっています。
湯田:ありがとうございます(笑)
中村:特に何かを意識することなく、きっとそういうものだと思ってサポートしてくださっているんだと思うんですけど、その姿勢がすごく居心地がよいというか、本当に一番信用を置く部分なんじゃないかなと思っています。
湯田:Dwilarには、創業のタイミングで一度出資をしていて、今回が2回目の出資なんですよ。私自身、フィンテックの領域をずっと見てきていて、国内でもスタートアップや、なかには銀行でも先進的な取り組みを行うケースが増えてきました。
そうしたなかで、大きなチャンスがある投資テーマと考えていたのが、まさにクロスボーダーの課題を解決するというところです。
インバウンド需要の増加に伴い、訪日外国人の方が増えていることや、日本企業が海外に進出する際に、煩雑な取引を円滑にすることもニーズがあると感じていました。また、何より中村さん自身は金融の知識も豊富で、アメリカに住んで自ら課題意識を感じながら事業に取り組んでいる。”Founder-Market Fit”という言葉が一番合うと思います。そうした背景もあり、Dwilarの挑戦に投資したいと考えました。
Q:中村さんに対する湯田さんの信頼感を感じますね。
湯田:中村さんの行動力とPDCAサイクルの速さには毎回驚かされます。
たとえば私が「この会社に一度会ってみたらどうでしょうか?」とお伝えすると、1か月もしないうちに新しい事業プランを組み立て、実際に契約までまとめてくる。そのスピード感こそが信頼の源泉でもあると思います。事業のピボットが必要になった局面でも、2か月で確かなトラクションを生み出しました。だからこそ、今回の追加投資を迷わず決断した、というのが率直な思いですね。
Q:LINEヤフーのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるZVCからの資金調達を経て、今後、LINEヤフーとの連携ではどのようなことを期待していますか?
中村:これまでは与信判定の自動化が主軸でした。
今後はAIを活用して、物件探し → 与信 → 交渉 → 契約締結 までワンストップで自動化していきたいと考えています。ユーザーはLINE上で「この条件で部屋を探して」とチャットするだけ、のイメージですね。
裏側では当社のAIエージェントが
1. 銀行トランザクションから与信データを瞬時に取得
2. 候補物件をリスト化し、複数の不動産会社へ同時交渉
3. 最適なディールを組み上げ、”最終契約書一歩手前”の状態で提示
――ここまでを全自動で行います。外国人の方が慣れない不動産手続きをする際、「AIに丸投げしたら最安・最速で鍵が手に入る」体験を目指しています。
湯田:そのUXを、”普段使いのLINE”に落とし込めたら面白いですよね。LINEは韓国や東南アジアでも高いシェアを持っています。訪日外国人の方が異国の地で新しいアプリを入れる必要がなく、慣れ親しんだチャットUIで完結できれば、サービス利用のハードルがぐっと低くなるかなと思います。
中村:日本におけるLINEのリーチは圧倒的です。チャットボット+AI与信+不動産APIの組み合わせは理想的だと思っています。将来的には家探しだけでなく、携帯電話や金融サービスなど「与信が絡む生活シーン」へ順次広げたいですね。
湯田:与信情報は、不動産だけに留まらないと思います。家電・スマホの分割購入やクレジット・デビットカードの即時発行、または海外から日本へ、あるいは日本から東南アジアへ移動する人々へのローンサービスなど、多領域で利用できると思っています。
決済、通信、メディアなど”縦”に事業を持つLINEヤフーだからこそ、Dwilarのクロスボーダー与信基盤が加われば、グループ全体のサービスがシームレスにつながるイメージを持っていて、そこに期待したいですね。
採用──“ユーザー課題にとことん向き合える人”求む
Q:採用についても伺いたいと思います。今のチーム構成を教えてください。
中村:フルタイム4名+パートタイム7名の計11名です。ビジネスサイド(営業・ファイナンス・アライアンス)が私を含め4名。開発サイドはバックエンド、フロントエンド、デザイナーに加え、マーケット分析などの経験者がパートタイムで加わりデフォルト率推定モデルなどを回しています。
Q:皆さんどこにお住まいですか。
中村:3人が日本で、残りがアメリカやカナダです。メンバーの多くは、外国人としてアメリカや日本に来て苦労した経験があり、「本当にこれは解決しないと、フェアじゃないよね」というのを自分たちで感じたからこそ、入ってくれたメンバーが多いように思います。

(アメリカにて、エンジニア(左・真ん中)と一緒に談笑する中村さん)
Q:Dwilarならではの特徴を教えてください。
中村:シリコンバレーに拠点を置くアクセラレーターの「Y コンビネーター」に受かろう、というのを目標に設定しています。3か月に1度、応募のタイミングがあるんです。なので、そのサイクルで動いていることが多いですね。
次のYCの応募までに、「ARRをいくらにしよう」とか「プロダクトをここまで進めよう」とか。3か月走ってみて、ダメだったらもう一度走り出す、というサイクルをどんどん回しています。
前回は、上位10%ぐらいまでいったので、次は上位5%、上位2%といった形で、年末ぐらいまでに目標を達成できたら最高だね、というのをメンバー同士共通認識を持って頑張っています。
Q:いまどんな人材を求めていますか。
中村:エンジニアのチームは、全員アメリカにいる状態になっています。そうしたなかで、いま日本で使いたいというお客様や、パートナー企業が増えているので、日本での習慣にも理解があるAIのエンジニアというのがチームにいてほしいという思いが非常にニーズとして強くなっています。
特に不動産だと、不動産会社とどんなコミュニケーションをするべきなのか、どこに力点を置いて交渉させていくとうまくPDCAが回るのか。また、欧米圏とかに比べると結構ウェットなコミュニケーションを求められることが多いのですよね。そうした部分をどうAIに対応させていくのかというのは、やはり理解とセンスがある方を配置したいという思いがあるので、日本にバックグラウンドを持ちながら、開発に一緒に携わってくれる方というのをぜひ募集したいなと思っています。
Q:近い将来、会社の規模としてどうありたいという想いはありますか。
中村:エンジニアに関しては、出来るだけ無駄なく、精鋭メンバーで良いプロダクトを開発していくことに注力していきたいと思っています。
Q:こういう人と一緒に働きたい、という理想像は?
中村:営業でもプロダクトの開発でも、一番はユーザーの目線に立つことができる人を求めたいです。
もちろん、面白いものを作りたいですし、新しいものを作りたいんですけど、お客様の課題を解決しなければあまり意味がないと思っています。そこを一緒に考えながら取り組める人とぜひ一緒に働きたいです。
あとは、AIに関して、アメリカに拠点を置いていることもあり、本当に1週間で常識が変わるダイナミックさに適応できる方が良いですね。やろうと思っていたことが、実装した時には、もう二世代前ぐらい遅くて、今は絶対こっちのほうがいいよね、みたいなことが多々出てくるので、常に新しいもの、一番良いものをキャッチアップしながら楽しめる方が向いていると思います。
Q:ありがとうございます。最後に採用候補者へのメッセージをお願いします。
中村:アメリカの、それもシリコンバレーでのAIエージェントの開発という今の一番ホットなトピックの領域に取り組めることは、本当に面白いと確信を持っています。希望があればアメリカに移住していただいてもいいですし、定期的に来ていただく形でも大丈夫です。
また、日本にお住まいの外国人エンジニアの方々の採用も積極的に行っています。必ずしも日本語の流暢さは求めていませんし、ビザのサポートなども積極的に行っていきます。実際に日本に住んで、苦労した経験を活かして、本当にユーザーに愛されるプロダクトを一緒に作れたら嬉しいです。逆に、英語に関しても、いまはちょっと自信がないな…という方でも仕事への熱意があり、頑張って勉強しようという風に思っていただけるのであれば、私たちと一緒に新しい未来を創っていけると信じています。ぜひ気軽にコンタクトしてほしいと思います。
湯田:日本発AIスタートアップとしてシリコンバレーに飛び込み、グローバルなチャレンジができるのはとても魅力的だと思っています。世界で勝てるプロダクトを一緒に創っていきたいと思っているので、我こそはという方はぜひコンタクトをお願いします。ともに未来を創っていきましょう。
採用等について、Dwilarに関心がある、相談してみたい方は、下記のSNSにてご連絡ください。
LinkedInはこちら
(出典)
*¹ Nova Credit(https://www.novacredit.com/)
*² U.S. News & World Report 「Best Countries 2024」(https://knowledge.wharton.upenn.edu/article/what-are-the-best-countries-of-2024/)